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■要約 論理的美術鑑賞


参加しているサロンで、夏休み中に対話型鑑賞のファシリテーションをすることになったので、準備として読んだ本を要約します。

サロンでの鑑賞会もすでに3回目。月1のペースで開催できています。


★対話型アート鑑賞#3(withまめさん)

このイベントでは、様々な鑑賞の視点を取り上げ、知識ゼロからでも楽しみながら、芸術の学習と思考の深化を通して、よりよく生きるきっかけづくりを目指しています。



今回取り上げるのはこちらの本 ↓

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「論理的美術鑑賞」です。タイトルと表紙だけ見ると、

論理的、読み解く、フレームワーク等と書いてあってロジカルシンキング的解釈をするのかなと思いました。一般的にアートといえば「ただ感じてください」みたいな話や教科書的な説明が多かったりするので面白そうな試みです。

ちなみにロジカルシンキングをざっくりいうと、

主張と根拠、結果と原因、などの因果関係と構造を明らかにした、誰がみても明快で説得力のある破綻のない思考のことで、その起源は哲学からはじまり、現代でも論文の構成や、ビジネスの報連相、身近なところだと、お小遣いの交渉や、何で~は~なの?といった疑問全般に使える超便利スキルです


では、本の要約をしていきましょう。



★ポイント


■論理的美術鑑賞とは、フレームを使って視点や思考のきっかけのヒントを得ながら、論理的な理解を促す鑑賞方法である。

■美術を学ぶことに即効性はないが、よりよく生きるための心のありかたや、思考のための視点をゆっくりと育む。

■フレームを使い、他者とも見解を交換することで、自分だけでは難しかった視点や理解が、多面的に広がり鑑賞を楽しむことができるようになる。



著者は、アート(感性)とビジネス(論理)の課題解決、懸け橋になる仕事をしている。そこでまず課題になるのはアートが理解されにくいこと。

その問題を解消するために3Pと3Dで理解するプログラムを作成した。


論理と感性は対立概念ではない。

論理の積み上げから本質を読み取る感性が育まれ、自信をもって説明できる知識として理解できるようになる。実践と検証から智慧になり、それを共有し無意識レベルで理解されると人類の財産である叡智となる。

情報 → 知識 → 智慧 → 叡智



■課題 美術がよくわからない

分析したところ主に以下の原因があった。

・深く知らない

・モチーフの意味がわからない

・西洋と文化の違い

即効性がなく表面的には価値がわかりづらいので興味がわきづらいことも。

8割の人は鑑賞レベルが深まっていないので醍醐味を体験できていない。


■解決 5つのフレーム+3D鑑賞

これをフレームワークで解決できないかと考えPEST分析の転用をはじめとした5フレームを考案。

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1.3P       

 背景と周辺、天地人の分析で「なぜ遺ったか」をみる

2.作品鑑賞チェックシート  

 シートの項目を埋めながらヌケモレなく感覚バイアスを外して要素をみる

3.ストーリ分析

 作家の人生をヒーローズジャーニーのフレームでみて、教訓と作家の視点を得る

4.3K

 変化の中残った理由を革新/顧客/共創・競争の3点でとらえる鳥の目

5.A-PEST

 政治、経済、社会、技術で作品の立ち位置をマクロにみる

+ 3D鑑賞

 1.dialogue 対話 / 2. demonstration 説明  / 3.describe 心理描写

これらのフレームを使って視点や思考のきっかけのヒントを得ながら、論理的な理解を重ねることで、思考の引き出しが増え感性が高められる。

感性とは?パッと自分の軸で(自分データベースから)ジャッジできる感覚


■効果 論理的鑑賞法をやってみると・・・

・見えなかったものが見えるようになる

・作品が2次元情報 → 奥行きや流れを加えて動画の様に理解できる

・受け取る情報が増え、感想(アウトプット)の質が高くなる。


■5段階の鑑賞レベルの向上を目指す


・パーソンズの発達理論

1.偏愛主義 2.美と写実主義 3.表現性 4.スタイルと形式 5.自主性


(筆者超訳)

1.表面的 (キレイ、気持ち悪い、自分でも描けそう)

2.本物そっくりがいい (技巧、リアル、丁寧さに惹かれる)

3.生き様や表現が好き (自己投影、作者の人となりも含めての評価)

4.アートヒストリーを理解 (なぜそうなるか、勉強していて詳しい)

5.独自の見解・批評 (ファクト、通説、他の評論も踏まえた)


・ハウゼンの美的感受性 

1.説明 2.構成 3.分類 4.解釈 5.再創造

上記と似た理論なので詳細は割愛。

8割の人は第2段階(上手い下手、好き嫌いで判断)にとどまっている。



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■基本の3P

 (天・地・人)は歴史に残るための必須要素


背景情報の整理、読み解きへの導入。

作品の奥行きを分析して「なぜ歴史に残ったのか」の前提条件を紐解く。


・period 時代、歴史 大きく5つにわけてとらえる。

古代 紀元前-5世紀 西ローマ帝国滅亡476年

中世 6世紀-15世紀半ば 東ローマ帝国滅亡1453年

近世 15世紀後半-18世紀 ルネサンス-市民革命 

近代 1981年以前 19世紀、産業革命以降 ベルエポック

現代 1918年以降 20世紀、WW1以降


・place 場所 作品と密接な関わりのある要素

富があるところ(芳醇な土壌)でこそ発展する

制作場所、発表場所。

中心地くぎり + 政治、宗教(カトリックVSプロテスタント)

近世 イタリア中心 → 近代 フランス中心 → 現代 アメリカ中心

・自分の認知時点での位置関係

収蔵場所、所持者、展示場所


・people どんな人物か?(美術史において)

生没年、制作年。

美術様式ごとの代表的人物を時代の流れでつかんでおくことが大事。

詳細は後述の「ストーリー分析」にて。


■作品鑑賞チェックシート

 フレームの力でバイアスを外し、ヌケモレなく感覚を整理する。


人はどうしても物事を見たいようにとらえてしまうバイアスがあるので、認識できない部分がうまれ、ありのままを見ることができない。それを解決するため項目だてしたヌケモレなくみるためのフレームを使う。感覚的に得た情報をここで整理し、後述の事実情報のフレームと照らし合わせて、深く理解することを目指す。


・モチーフ(テーマ、人物、もの、場面)

・色(主な色調、印象的な配色)

・明るさ(受けた印象、雰囲気)

・複雑さ(感覚でOK。描かれている対象の数など) 

・大きさ(実際のサイズ、うけた印象の大きさ)

各項目に好き/嫌いを5段階評価

+全体のどんなところが好きか


■ストーリー分析

  5STEPで作家にフォーカス、その視点から鑑賞する 


ヒーローズジャーニーというシナリオ作成の型を転用している。作家の人生というストーリーを理解することで、作家の心情、作家にとってどういった作品なのか、という視点を得られる。

作家の試練を教訓とすることで、私たちは生きる知恵を得られる。

作家の人生ドラマ=究極のアート

・旅立    生まれた日、場所、作家になるきっかけ

・出会い   師匠、メンター、仲間、友人、恋人、ライバル 

・試練    どのような(批判、金銭、死、別れ、病、ラスボス)

・変容、進化 どう乗越え、変化したか、何のヒーロー/ロールモデルになったか

・使命    生涯を通して 成し遂げたこと、後世への影響。


■3K

 美術業界の構造を俯瞰し、時代性をとらえる 鳥の目


作品の背景が見えてくることで、前後左右(時代性、民族性、地域性)の流れの中でどこに位置づけられるか、なぜそのような様式や作品がうまれたかが見えてくる。


・革新

 当時における技術革新や代替品の登場によって、どんなインパクトがあったか。それによって生活や美術がどう変化したか。正誤よりも当時の状況を想像できるようになることが大事

・顧客 によって求められるものは変化する。

 制作物は誰の手にわたっていたか

 (教会関係者、王族、貴族、商人、富裕層、経営者)

 なぜ購入したか(布教、権力、象徴、記録、趣味)

競争/共創

 同時代の人間関係(師弟、ライバル、友人、ヒーロー)

 どのような集団や派閥だったか(アカデミー、派、組合、サロン)

 その集団の人数や、認知、評価されるシステムは。

 制作されていた主要なジャンル(絵画、彫刻、歴史、肖像、風俗、静物)


変化/革新とそれにまつわる人間関係を「それまでの主流を塗り替える画期的作品だったのはなぜか」を中心にまとめる。


■A-PEST

美術様式を読み解き、マクロ環境とのつながりを見る


美術という文化を取り巻く環境を理解することで、情報が有機的につながり教養、知的財産に。物事の文脈やバックグラウンドを理解する力が育まれる

要素をピックアップしたら、その理由や由来、背景も調べる。

Art      どの様式、ジャンルに分類されるか。その特徴(の由来)は。

Politics   政治。その国の統治、政策。争いや協働。

Economy  経済。消費や景気の動向。富の移り変わり。

Society   社会。人口動態、インフラ、ライフスタイル、宗教。

Technology    技術。発明・発見。進歩や革命。




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■実践 いざ美術館へ!


1.用途によって使うフレームを選ぶ ※()内は使い方

・作家を中心にみる、個人展の場合。

  → ストーリー分析(1週目、作家人生の軌跡に注目してみながら記入)

    A-PEST(2週目、俯瞰した目線でキャプションなどから情報収集)

    3P (どんな展覧会だったかの感想を含めて最後に記入)

・作品を中心にみる、複数作家の展示場合。

  → 作品鑑賞チェックシート(いくつか気になる作品の前で記入)

    3K (どのような時代の流れの中にあったの背景を探る)

    3P (どんな展覧会だったかの感想を含めて最後に記入)


2.ワークシートを3部づつ印刷


3.美術館で鑑賞

 作品配置図、展覧会概要、音声ガイド、章だてされたテーマ、

 キャプション、図録などから情報を収集しシートに記入していく。


4.3D鑑賞

dialogue 対話

demonstration 説明

describe 心理描写

シートを持ち寄り、見方や感想をシェア。他人の目線や感想から自分の見方の幅が広がる。


5.ガイドからの解説

時代背景などの補足が加わることで、感想が変化する。

自分の中に蓄積された知識が、作品を深く理解させ心を震わせる瞬間が訪れる。


■美術鑑賞、美術を学ぶ意義


美術=教養としての知的財産。様々な文化や歴史、風習、宗教などを知ることで、複雑で多様なグローバル環境でのコミュニケーションツールとなる。

「人間としての精神的な豊かさを充実させる投資」であり

「人生を豊かに生きるための智」


■どのように役に立つか?


・価値を生み出す見方を増やす

 1つの作品に詰まった膨大な情報を読み解く過程で、表層的な広がりのない視点から、背景から想像、推測する多面的な見方が身につく。「イノベーションのジレンマ」で語られるような「一見関係なさそうなことを結びつける思考」、「経済発展の理論」で語られる「新結合」のような、つながりをみいだし新たな価値を創造していくダヴィンチのような「ルネサンスシンカー」としての力を養える。


・決断のための「内なる羅針盤」を形成する

 アートは、世の中の潜在的な問題を提起することで、鑑賞者に問題を認識し、対応を思考させる。これからを生きるためのヒントが詰まっているアートにふれることは、解釈し自分の感じ方で判断、行動するための感覚を高める羅針盤(美意識)となる。


・心にビタミンをもらえるエネルギー源

心に潤いとインスピレーションをもたらし、全身全霊で制作された作品からエネルギーを充電。じわじわと効いてきて世の中や悩み事への向き合い方を育てる。

「私たちの生活は事実だけでは成り立たず。どうしても生じてしまう感ずる心がある。科学技術は環境を変える力があるが、芸術は環境に対する心を変えることができる。直接役に立たないように思えて、蓄積されたものがやがて感ずる心を育む」

佐藤忠良/美術を学ぶ人へ





以上です。おつきあいありがとうございました。

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