100キロババアの代償
朝から花火の音がする。
私が住む地域では、このご時世には珍しく、大き目の運動会がある。
徒競走、2人三脚、パン食い競争・・・「聞いたことがあるし、定番だけれど意外とやったことがないな」と思われるようなトラディショナルなラインナップだ。
新参者である我が家は、地域のイベントに参加するべく、町内会や子供会に、なんとかかんとか加入して(最近は絶対入って!とかの圧力もなく、こちらから強めに言わないとどう加入したらいいかわからない)、当日ふらりと参加した。(事前申し込みがないのもすごい)
やはり古くからある地域なので、住民も高齢の方が多い。
30代の後半とはいえ、我々はフレッシュな存在らしい。
「奥さん!リレー出られる?!玉入れと、あれとこれも足りないの!」
去年はもう少し女性がいたように思うのだが、今年は少し参加者が減っていたようだ。来年は子供の友達の親も誘って参加して、子供達はその辺で遊ばせよう。そう心に決めた。
私はというと、200メートル走とリレー、あと3個くらいやった。夫も1つ、男性が足りないということで参加させられていた。頑張った。
我が家の長女(小2)はスポーツを習っていて、毎回その練習の様子を眺めていたので私はすでにイメトレが完成していた。
腕を素早く振り、足は体の下に着地、体がぶれないように呼吸を止める。完璧だ。コーチが降臨したような気持ちになる。
出場者が少ない200メートル走一般女子では、スタートで出遅れてずっと2位。1位の選手が飛ばしてくる砂利が目に入る。くそ・・・負けた。
笑う膝を抱えながら、次の種目に走った。
最後は町会対抗リレーで、一番の盛り上がりを見せた。
去年も駆り出されていた女の人と、「もう顔を覚えられて、マークされちゃってるね、ケガだけしないようにしようね」と励まし合った。次の日からはいつもの日常が待っているのだ。けがをしたら大変である。
とにかく空き時間で回せる関節を回しまくり、伸ばせる筋肉を伸ばしまくった。靴紐を縛りなおして、娘たちに私の雄姿を見せるときが来た。
第三走者までは1位と2位に差が無かったが、20代男性が途中で転倒!「あ~!」と嘆く声が響いたけれど、すぐに持ち直して次にバトンがつながる。
みんな、「とにかくこけたくない、失敗したくない」という気持ちでいっぱいである。
私の前は、最初に「ケガしないようにだけ頑張ろう」と誓い合った女の人だった。おそらく運動は好きではないが、ノリはいいというタイプ。必死に走ってきてくれたので、とくに遅れなかった。2番目だった。
転びそうだったので、少し手前まで迎えに行って、バトンタッチ。
絶対抜かして一位になりてぇ・・・!という私の中の中学2年生を(何十年前やねん)呼び起こしながら、以下のことだけを考えた。
・肘を固定してとにかく早く腕を振る
・膝をあげる
・後ろにけらない
・なるべくかかとじゃなくて母指球で踏む
・前だけ見る
・息止める
最後の「息止める」は中学時代の部活の顧問が教えてくれたな~と。ガチのアスリートは、400M走くらいまでは息をしないのだそうだ。肩揺れるもんね。
コーナーでいい感じに1位の人を抜いた。
かなり嬉しかった。
最終的に、リードを守り切って、即席チームは1位となった。
勝利の余韻に浸りつつ、子供に大絶賛されて気分が良かった。
また、久しぶりに全速力で走って、気分爽快。
自分は体を動かすのがこんなに好きだったとは!とびっくりした。
毎年参加して、活躍したら、近所の悪ガキに「100キロババア」と呼ばれるのもいいかもしれない。魔女っぽくていい。
次の日。
ほぼすべての筋肉がボロボロになり、悲鳴を上げた。
車の運転もままならない。
なんとか事故を起こさず、無事に帰ってこられたのが不思議なほど。
やばい。
本当に痛い。
とにかくゆっくりストレッチ。
週末の私は野菜をすべて下処理してくれていたので、何もかも「鍋に入れるだけ」になっていた。
ありがとう。
古来から、過ぎたる力には代償がつきものだというけれど、ちょっと張り切ってこれだとは。
魔女になるのも大変である。