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見つけたのは、知らない弟

少し前のこと。

しばらく連絡を取っていなかった3歳下の弟に用事があって、LINEで連絡をしようと探してみた。

検索欄で弟の名前を入力してみると、アイコンが5,6歳くらいの少女がピースをしている写真のアカウントが出てきた。写真の雰囲気からするに、娘の写真をアイコンにしているような感じだった。

「いつの間に子供が出来たんだ?というか、いつの間に結婚を??」

何かの間違えかと色々と検索をしなおしてみるが、どう探してもこのアカウントに行き着くのだった・・・・・。

「探す」というのはミステリーの醍醐味である。犯人を捜す、証拠を探す、行方不明者を探す、など。ミステリーとは「探す前と後で登場人物の心境が変わる話」と言えるかもしれない。

そんなミステリー満載な映画が『さがす』である。

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、 智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。
それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る 楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

(ここからネタバレがあります)

この作品は、さがす前と後のように、映画を見る前と後でイメージが変わっていく。

娘の視点でこの事件を追った後に、父親視点、そして殺人犯視点でこの事件が描かれる。新しい視点が加わるたびに、観客はこの事件をより立体的に理解することができ、だんだんとこの父娘の本当の姿が明らかになっていく。

娘が父をさがし始めたのは失踪してからではなく、それよりもずっと前、この家族にある事件が起こってからずっと、父の本心を探していたのだと思う。

この父娘ほどではなくとも、同じ屋根の下で暮らす家族でも、知らないことはたくさんある。ましてや離れて暮らす家族のことは、意識して気にかけていかないと、どんどん心が離れていってしまうと思う。


そんなことを言いつつも、全然連絡を取っていないから、LINEアカウントに現れた「娘アイコンの弟」に頭を悩ませたりもするのである。

それからしばらくして、突然父が家族LINEグループを作ってくれた。そこには全然違うアイコンの弟がいた。会話の内容をみるに、どうやらこちらが本物の弟らしい。じゃあ、娘アイコンにしている弟はいったい・・・・・・。


調べたところによるとLINEは、電話番号に応じてアカウントを自動表示するため、アドレス帳に残っている電話番号に該当するLINEアカウントがあると、表示されることがあるらしい。

つまりアドレス帳には弟が以前に使用していた電話番号が残っていて、その番号が今は他人(娘アイコン)に再利用されていたため、弟の名前でそのLINEアカウントが表示されてしまったわけだ。

ミステリーだと思ったことも、案外些細なことが原因だったりする。ミステリーを解き明かすために大切なのは、あきらめずに「さがす」ことなのだろう。

編集:彩音
文章:真央

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