『異性勉強部屋』
僕の部屋は、「僕の部屋」と呼んでいいのか分からない。なぜなら、間にパーテーションがあって、姉が隣の「区画」とでも言おうか、とにかく居るわけで、だから「僕の部屋」は厳密な意味で言えば、僕の部屋では無い。こうやって文字に起こすくらいなのだから、多くの場合、姉との関係は良好過ぎるか、あるいは極めて悪いの二極端だと思うが、僕と姉の関係は極めて平凡すぎる。一歳上だからたまに勉強を教えて貰うし、出入口は僕の部屋の側にあるから、母さんが時々リンゴを持ってきて、「僕の部屋」で、三人でリンゴをシャリシャリと食べる。たまに姉と喧嘩するが、次の日になれば普通に話す。改めて僕らの関係は、そんなに良くは無いが、悪いとは言えないと言った感じだと思った。
僕が高校二年だから、姉は高校三年で、そろそろ受験の時期で、ずっと勉強をしている。あまり騒がしくできないし、水曜日の三人でリンゴを食べる時間も減ってきた。姉は母が居ない時は、僕の事をお前と呼ぶ。母は口調にうるさいから、母の前では下の名前で呼んでくる。
「お前、受験勉強してる?」
「してない」
「した方がいいよ、私ほんとにしんどいから。」
「そっか。」
ほぼそれだけの会話をパーテション越しにする。
姉は、本腰を入れて勉強をしている。僕が寝てる時だって、シャーペンの音がする。受験の一週間前になった。リンゴは食べないし、僕に強く当たるし、学校も、受験期間で休みになったらしく、ずっとひきこもって勉強している。その日の夜、パーテションの向こうから、「お前、起きてる?」という声が聞こえた。話すのは久しぶりだし、少し嬉しかった。「うん。どしたの?」「駄目だったら、私の事、殺してくれない?」「何が駄目だったら?」
その後、今日まで姉とは話していない。今日は、母が言うに、姉の合否が発表される日だそうだ。
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