馬留学 - Week 2
イギリス、Talland滞在2週間目に入り、同じインストラクターのレッスンや同じ馬に乗る機会もあり、だいぶ慣れてきた。レッスンは毎回、異なるインストラクター、異なる馬だが(同じ日の2鞍のレッスンで同じ馬と同じインストラクターという組み合わせはない)、私のレベルの練習馬が順繰りに回って来るので、すでに数回乗った馬もいる。もちろん、2週目にして初めて乗る馬もいるし、初めてレッスンを受けるインストラクターもいる。この色んな馬に乗る、色んな人から指導を受けることこそ、私がここに来た理由で、毎日色んな発見があり、自分の中に乗馬に関する抽斗が加速度的に増えてきているのを体感している。
Be brave
馬に乗っていて、こういう時はどうしたらいいんだろう、これがうまく行かないけど、どうしたらうまくできるんだろう、ということは誰にでも起こることではないかと思う。指導者からレッスンを受けている最中であっても、結局馬に乗っているのは自分一人で(二人乗りはしないからねぇ)、その瞬間、瞬時に自分で判断しなければならないことっていっぱいあって、わからないから無意識のうちに手綱を引っ張ってしまったり(絶対にするなって言われているのに…)、考えようとしていて、自分がバランスを大きく崩してしまったり、自分の体の動きが全く止まってしまったり、そんなことばかりが続くと、自分は下手だからと自ら気持ちをへこませて、それで終わりということが私の場合はよくある。が、ここTallandで学んだことの1つは、勇気をもって色々試し、失敗をして、学ぶこと。うまく行くまで試して、エラーをして、うまく行くまで試し続ける。この精神が、恐れず試すことが、私には欠けていたのだと知る。
Checklist
癖はなかなか直らないもので、特にどこか緊張しているときには、悪い癖が出てきてしまうようだ。これも実はいつも指導者から言われていることだが、自分の体は自分でしか直せない。本当にそうなんだよなぁ。
ここでのレッスン中でもちろん変な所、間違って行っていることがあれば、指摘してくれるが、常に口酸っぱく、あぁしろ、こうしろ、ここがいけない、とは言われない。また悪い癖が出てきたなと自分で感じ始めた瞬間くらいに、Go through your checklistとよく言われる。自分で確認しろということだ。自分の手綱が今どこにあって、どこにどれくらいの力がかかっていて、脚の位置はどこで、どっちの座骨に体重がかかっているか、といった具合に私には長いチェックリストがあって(これは自分が気づいたことを自分で列挙して確認する頭の中のリストであって、指導者が作って渡してくれるようなものではない)、それをチェックしなさいと言われる。馬の動きもだが、自分の体やその動かし方の感じ(feel)を常に意識しろということでもある。ぼやっと乗っていてはだめで、常に考え、常に感覚を、特にうまく行った時の感覚をつかんで、再現に務める、そんなレッスンだ。
Don’t be a passenger
そのことを端的に表した表現が、「乗客じゃないのよ、乗客になってはだめ(Don't be a passenger)」で、他のとても上手な方の練習を見ていた時に耳にした。このとき見学していたレッスンは、きれいな20mの輪乗りをし、中央線のところで停止する、あるいは歩度を落として数歩進み、また元の歩度に戻す移行を行うというとてもシンプルな練習を正確に、たとえば、馬は常にわずかに内方姿勢をとり(決して首を曲げるのではない)、早くも遅くもならず、前進気勢があり、自らの手綱の位置を常に修正しながら、馬体には丸みを求め、といった練習だった。これを繰り返す。途中、手前をかえてまた繰り返す。ものすごくきれいに乗っているように見えたが、毎周、全く同じというわけにはいかない。微調整が常に必要だ。それを怠るな、という指示だったのだと思う。シンプルな練習ほど、難しいでしょう? とレッスン後に指導者が騎乗者に声をかけていた。
Group lesson
毎日2鞍受けるレッスンの1鞍はグループレッスンで、人数はまちまちだし、同じレベルとも限らず、インストラクターでさらに上のインストラクターの資格(BHSのTeach)を取ろうとしている人と一緒だったりする。インストラクターの同じ指示には従うけれど、前について行くといった部班ではなく、個々に個々のレベルに合わせた練習をする。たとえば、ここではよく蛇乗りを行う。最初は3回曲がる普通の蛇乗り、次はまっすぐになったところで、停止をしたり、指定の歩数だけ、常歩をいれたり、速歩をいれたりと色んなバリエーションで練習する。停止の正確さだったり、インストラクターが個々の騎乗者に求めるものや修正すべき点は異なるが、皆同じ動きを行う。駈歩の部班では馬によって、あるいは騎乗者によって練習したい速度とかも違うから、日本ではよく追い越すなと言われるけれど、順番を変えないことが大切なのではなく、間隔をしっかりとって、ぶつかったりしないことが大切なので、自分が前の人より早いなと思えば、小さくその場で輪乗りをして列に戻ったり、特に駈歩だと小さく輪乗りをするよりも、少し大きく回る感じで、順番をダイナミックに変えながら、同じことを練習する。馬なりにスピードを上げるのを許すわけではないし、皆、スピードをコントロールしつつ、そうしたダイナミックな入れ替えをしながら、進めて行く。(私にとっては部班の概念が変わる体験だった。)
真剣
私は海外留学をしたことはないし、帰国子女でもないので(日本以外で暮らした経験はない)、英語は外国語であり、毎日仕事で使ってはいるが、ITの世界で頻繁に使う単語はここでは登場すらしない。レッスンで何をするかの指示はもちろん英語だ。先ほど紹介したように色々なバリエーションを加えて練習をする。中央線だけでなく、斜め横歩なら、1/4あるいは3/4のラインも使うし、輪乗りも20mだったり10mだったり、最初はシンプルだけど、すこしずつ複雑になったりするので、ちょうど障害のコースを覚えるような感じで、求められる動きを頭に描き、練習をする。もちろん、わからなければ聞き直す(馬に乗りながらだから、聞こえないことも多々ある)。この、真剣に相手の言うことを理解しようとする頭の動きが、どこかとても久しぶりな感じがして、すごく新鮮だし、毎日様々な新しい単語にであったりして、私にとって初めての馬留学の「留学」部分も楽しんでいる。