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春に思う~出会いの幸運~

2016年の4月。
ウルグアイの前大統領ホセ・アルベルト・ムヒカ・コルダノさんが来日されたことを覚えていますか?
私は愛を込めて『ムヒカさん』と呼ばせてもらっています。

既にご承知のように、彼はたくさんの名言や名スピーチを世に贈りました。
特に2012年にブラジルで行われた、国連環境会議でのスピーチは、それを聞いた全世界の人々が心を震わせました。

ムヒカさんの思想は極めて明快で『環境に優しい人間であれ』と、まぁ、エアーズロック並みに噛み砕くとそういう事です。

当時、私は子供がいじめを受けており悩みの中におりました。
なぜ人は人を差別するのか。
なぜ人は人の上に立とうとするのか。
なぜ人はこんなにもろいのか。

なぜ自分はこんなに無能なのか。

自分の苦しみだけで頭がいっぱいで、この小さな『学校』『地域』という社会の中でもがきにもがいていました。

そんな時にムヒカさんは日本にやって来ました。

あの愛くるしい笑顔と共に。

『幸せとはなにか。』
テレビ番組に出演したムヒカさんは、日本の全国民に問いかけました。
そうして、『消費社会』『競争社会』となった日本に警鐘を鳴らしたのです。
『貧乏なひととは少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲がありいくらあってももっともっとと満足しない人のことだ。』
彼の有名な言葉です。

私はムヒカさんのつぶらな瞳の奥にある、怒りや悲しみ、そして大きな愛に涙が止まりませんでした。

私はもっともっとと思っていました。
子供がバカにされないように、友達に受け入れられるように・・もっと生活水準を上げなければ、もっと勉強させなくては、もっと強い子に育てなければ。

現状を否定し続け、高みばかりを仰ぎ見て、今そこにある幸せに気付かずに生きていました。

本当は私にはたくさんの幸せがあったのです。

子供達が「お母さん」と呼んでくれる幸せ
一緒に犬の散歩に行ける幸せ
ご飯をおいしいと言って食べてくれる幸せ
両手で頬を包み込んであげられる幸せ
笑顔をもらえる幸せ
他にもたくさん、たくさんあったのです。

なんて貪欲で
なんて傲慢で
なんて貧しい人間だったのか。

私はまるで神様に頭を撫でられた罪人のように
これまでの自分の愚かさに嗚咽しました。
指からサラサラとこぼれていった時間は、あまりにも膨大で、取り返しようのない刹那の積み重ねでした。

番組の中でムヒカさんの言葉が紹介されました。

「わたしはたとえ私達にひどい仕打ちをした人でも憎もうとは思わない。憎しみはなにも生まないからだ。私はあの獄中生活の中で学んだ。人はわずかな物しか持っていなくても幸せになれる事を。」

かつてムヒカさんは過激派ゲリラの一員でした。
格差、貧困、差別。
そんな社会を変えようと、武力という手段で訴え続けました。
人を殺したこともあるそうです。

『人は変われる』

10数年に渡る拷問と、独房での孤独との戦いで中で、武力では何も解決しないと悟ったそうです。

憎しみが憎しみを生む。
幸せこそここにある。

掲げる御旗は崇高でも、その手段が人々の悲しみの上に立つならば、それは罪でしかありません。
それに気づいた彼は、政治を中から変えていく方法を選びました。

そうして彼は、国民にこよなく愛される『世界で一番貧しい大統領』となりました。

全て終わりにしよう。
憎しみを収め、自分自身も許してあげよう。
許した上で、『いじめることは犯罪なんだ』と子供に教えていこう。

そのテレビを見るまでは、憎しみと後悔に振り回され苦悩する日々ばかりでしたが、ムヒカさんのたくさんの言葉に触れた後は、川を塞き止めていた大きな岩を叩き割ったように、私の幸福が勢い良く流れ始めました。

あれから2年の月日が流れようとしています。

昔の三流映画なら、いじめを克服して親子で幸せに暮らしましたとさ。ムヒカさん、ありがとう!となるところでしょう。

でも、実際は、私達親子は立ち向かうことを諦め、引っ越しを決意しました。
執着する忍耐よりも、前を向く勇気を選択しました。

結果は、先日の息子の卒業式での涙にありました。
「ここにきてよかった。」

幼い頃から仲の良かった友達が、一人、また一人といじめる側に回っていった絶望感。
「学校へ行ってみんなと遊びたい。」と泣きじゃくりながら言ったあの夜。
それもこれも、全部、新しい学校の子供たちは遠い昔の思い出にしてくれました。

卒業式の日、友達とふざけながら撮った写真は、この引っ越しが間違いではなかったんだと教えてくれました。

ムヒカさんが来日してから、来月で2年。
ウルグアイから遥か遠いこの極東の日本で、彼に救われた私達親子。
引っ越した先の、小さな集落の小さな古民家には、とても大きな幸せがありました。
彼との出会いが、私達をこの地に導いてくれました。

時は春。

小学校の桜の枝がほんのり小豆色に染まってきた今日この頃。
我が家の中庭のヂンチョウゲも花を咲かせ始めました。
『あなたも祝福してくれるのね。』
そう思うと、また目頭が熱くなりました。
幸せは、至るところで手を広げて待っていてくれるのですね。

こんな穏やかな暮らしに導いてくれた、ムヒカさんと私を支えてくれた家族と友人に、最上級の愛を込めて「ありがとう。」を贈りたいと思います。
そうして、私もまた、「ありがとう。」と言ってもらえるように、毎日を丁寧に生きていこうと思います。

そうして、この記事を読んで頂いた皆様にも、心からの「ありがとう。」を贈ります。
本当は握手してハグしたいところですが・・。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。
今日一日、幸多きことを願っています。

春に思う徒然でした。

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