近所にインディーズの警官がいる
タイトルの通り、近所にインディーズの警官(ようするに本当は警察ではない警官)が現れるという話です。
わたしは今は台東区の某所に住んでいるのですが、住居の通気がよいのか窓がわりあいでかいせいか、外の音がたいへんよく聞こえます。
耳せんをせずに寝ると、ごみ回収の車の音でだいたい目が覚めますし、段ボールの回収業者が謎のじゃんけんをしながら楽しそうに回収しているのも聞こえます。
夜寝るときも、道行く酔っ払いの会話が聞き取れるほどですし、近所の建物に住んでる一家の息子が反抗期らしく、怒鳴りあっているのも聞こえます。まあそれはいいんですが、とにかく音が良く通るということです。
そしてわたしは「彼」との接触を経験しました。
出会い
たぶん初夏ぐらいだったと思います。もう日付が変わったぐらいの時間、横になってうとうとしていたわたしの頭上で、大きな声がしました。
「警察だああ!」
はっきりそう聞こえました。
「警察だぞ! そんなことをしていいと思っているのか!」
げえっ、警察!
あまりにはっきり聞こえたので、わたしはかなりビビり、飛び起きて警察の姿を探しました。
ま、まさか、ガサ入れ!
まあ、べつにうちには違法なものはないのですけど、怪しまれそうなものは山ほどあります。
濃硫酸とか水酸化ナトリウムのような劇薬もあるし、明らかにあやしい物体(以前ほしいものリストから贈ってもらった蛮刀、簡易ガスマスクなど)もあるし、袋に詰まった複数の白い粉(クエン酸や細工用耐火粘土、園芸用薬品など)や袋に詰まった樹脂状の破片(蜜蝋)とかもあります。
絶対めんどくさくなる。
いちばん心配なのはパソコンですね。パソコンとか持ってかれたらどうしよう。イヤだなあ。
一瞬でそこまで考えたところで、目が覚めてきて、電気もつけましたが変わったところもなく、どうやら家の中に警察が入って怒鳴っているわけではないとわかりました。よかったよかった。
その時は、わたしはまだその声の主のことを、本当の警察だと思っていました。よく考えてみると警察が「警察だぞ! そんなことしていいと思ってるのか」と言うのややおかしいんですけど、自分で警察だって言うなら警察なんだろう。ぐらいの感じです。
道で叫ぶおじさん
それから数か月後。
「警察だぞ! そんなことしていいと思ってるのか!」
夕方のことです、また外からあの声が聞こえました。
今度は起きていたので声の方向もわかりました。すぐに外を見ると、暗がりの中をわりあいガタイのいい男性が歩いています。顔は見えなかったので年とかはわからないけど若くはなさそう。
「警察だ!」
おじさんが叫んでいました。
げえっ、こいつだったのか。
警察じゃないじゃん。
そう、声の正体は「自称警察のおじさん」だったのです。
もしかしてたばこのポイ捨てでも注意してるのか? とか思って道を見ましたが、視界の範囲には誰もいませんでした。見えないところにいる誰かに言ってるのでなければ、たんにおじさんが一人で「警察だ!」と怒鳴っているだけです。しかも声がでかい。
「こ、これはインディーズの警察では?」
わたしはそう思いました。以下はわたしの推測となりますが、ようするに、ただの警察ファンがいかにもポリスっぽいせりふを吐いているだけです。たぶん警察にあこがれているのではないでしょうか。
ほら鉄道ファンが車掌の真似をするとかそういうのの警察バージョンです。たぶんそうです。だって本物の警察は道で叫ばないですからね……。
そんなわけで、わたしは顔も知らないその人を「インディーズの警察おじさん」と仮に名付け、自分の中の「近所の人リスト」に追加しました。
後日談
その話を周囲にしてみたところ「警察は自分のこと警察だって言わないですよ」「そんなことしていいのか、って規範じゃないですか。法律じゃないでしょう」などと言われて、やはりおじさん警察じゃなかった説が濃厚です。
とくに前者は警察とかかわりの多い(色々な理由で)人が言っていたのでたぶんそうです。
わたしは社会への認識が大まかなので「そういう警官もいるのかな」ぐらいで思ってたのですが、たんに「警察っぽいせりふ」なだけで、やっぱり本物の警官にしては雑すぎるようです。
わたしはおじさんの声をまた聞きたいのですが、寒くなったせいか今のところ現れていません。個人的にちょっとファンになったので、彼にはぜひ元気にインディーズの警察を続けてほしいです。
もしこの文章をお読みの方に、おじさんのことを知っている人がいたらぜひ知りたいです。たとえば、道などで前述のようなセリフを聞いたことがある、それらしい人を見かけたことがある、むしろ知り合いだ、いや彼はインディーズじゃなく本物の警官だ、むしろおれがその警察おじさんだ、などなど。お待ちしております。
台東区は道で叫ぶ人が多い?
それとは全然関係ないのですが、ちょっと前に近所のスーパーの前で、自転車に乗って叫んでいる人がいました。何を言っていたかというと。
「ビキニ・ウォリアー!」
と叫んでいました。
発音は明瞭だったので効き間違えの可能性は低いです。
あと、かなり最近ですが、駅のホームのベンチで、ミスチルかなんかの歌(歌にくわしくないので正確にわかりません、とにかくメジャーっぽいその世代っぽい曲)をけっこうでかい声で歌ってる女性がいました。
わたしがベンチの離れたところに座ったら、ちょっと歌のトーンが落ちたので「あ、やめるのかな」と思いましたが、そのまま電車がくるまで歌い続けました。彼女のミュージカルのような人生においてわたしごときはただのモブなのです。聞いてみるとわりとうまいんですが、どうかと思います。
さらに最近ですが、同じ駅の同じベンチで、ヒッピーっぽいGジャンを着たお爺さんが、ヒッピーっぽい英語の歌を高らかに歌っていました。あのベンチは歌のメッカかなんかなんでしょうか。
こっちもうまかったんですが、いかにも遊んできた感じの人特有のしゃらくさい声と、わりとうまい英語の発音がちょっと鼻につきます。こういう人はどうせ元バックパッカーです。若いころはアメリカで大麻とかLSDとかビートルズとかフリーセックスをやっていたにちがいありません。けしからんですね。うらやましい。
半年ぐらい前には、浅草のドン・キホーテ前で、乱暴な感じのおじいさんが警察ともめていて、最終的におじいさんは両手両足をそれぞれ別の警察官につかまれて持ち上げられ、ヒトデみたいなかっこうで警察官に運搬されていきました。運ばれながら公務員の悪口を叫んでいました。みんな大変だ。
あと昔はギーゼロの難民キャンプというとこに住んでいたのですが、住み始めた当時は、毎朝三時ぐらいに近所のどこかから絶叫が聞こえるのでよく眠れませんでした。しばらく続いてから聞こえなくなりました。
なんかね。
台東区は叫ぶ人が多いんじゃないでしょうか?
そういう話を友人にしたら「いやそんなに変な人見かけないよ、あんたにそういうヒキがあるだけだよ」と言われました。
どうでしょうかね。みんな平日昼にぶらぶらしないから出会わないだけですよ。世の中そういう人はいっぱいいますよ。そんなヒキなんてありません。ないの。そういうことでよろしくお願いします。お願いしましたよ。