妊婦さんと葉酸
妊娠期の栄養管理は、一般的な栄養管理とは異なる部分がいくつかあり、なかでも「葉酸」は積極的な摂取が求められる重要な栄養素です。
葉酸(Folic acid)
葉酸は、ほうれん草やグリーンアスパラガス、納豆、レバー、いちごなどに含まれるビタミンB群(水溶性ビタミン)の一種です。
体内では合成できないため、食品やサプリ、加工食品等から摂取する必要があります。
食品に含まれている葉酸の化学形態は「プテロイルポリグルタミン酸」で、サプリや加工食品等に添加されている葉酸の化学形態は「プテロイルモノグルタミン酸」です。同じ葉酸でも化学名は違っており、生理学的作用も違います。
|葉酸の化学形態別の特徴|
プテロイルポリグルタミン酸は、消化管の酵素によって分解され、モノグルタミン酸型の葉酸となった後、小腸の上皮細胞から吸収されます。
体内での利用効率(相対生体利用率)は、プテロイルポリグルタミン酸50%、プテロイルモノグルタミン酸85%と言われています。
葉酸は、細胞分裂に必要なDNAの合成に関与しており、細胞分裂が盛んな胎児期は、葉酸の要求量が高まっています。そのため、葉酸は胎児の組織・臓器が形成される際に必要不可欠な栄養素と考えられており、さらに神経管閉鎖障害リスクを低減する可能性が示されています。
葉酸摂取の課題
神経管閉鎖障害は先天異常疾患の一つですが、予防可能な疾患です。そのため、妊娠計画時から妊娠期、さらに産後に至るまで葉酸の摂取量を強化する必要があります。
神経系は受精後17日ほどで形成が始まり、神経管については受精後28日(妊娠6週)で閉鎖するため、このタイミングには葉酸が充足できていなければならず、妊娠してしばらく経ってから葉酸摂取を意識しても、少々遅いのです(もちろんプラスには働きますが)。現に、先天異常の多くは妊娠直後から妊娠10 週以前に発生していると考えられており、厚生労働省の勧告をはじめ、さまざまな形で妊娠前からの葉酸の強化摂取が推奨されているのです。
しかし、計画的妊娠の数はそう多くありません。それにもかかわらず、「妊娠前から葉酸を摂ろう」と情報発信するだけでは、今の浸透率を考えても、あまり実効的ではないかもしれません。
葉酸はどのくらい摂ればよいのか?
一般的な20~30代女性の1日あたりの葉酸摂取量の推奨値は240μgですが、妊娠中の間はさらに240μgの付加(計480μgの摂取)が推奨され、産後は100μgの付加(計340μgの摂取)が推奨されています。
さらにさらに、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間は、通常の食品以
外の食品(サプリなど)に含まれる葉酸を1日400μg 摂取することが望まれています。
|食品に含まれる葉酸の量|
小松菜(1/2束):140μg
ほうれん草(1/2束):284μg
ブロッコリー(5個):110μg
アスパラガス(3本):91μg
いちご(10個):135μg
サプリの活用も一つの方法
日本人の食事摂取基準2020年版には、「妊娠を計画している女性、または、妊娠の可能性がある女性は、神経管閉鎖障害のリスクの低減のために、付加的に 400µg/日のプテロイルモノグルタミン酸の摂取が望まれる。」との記載があります。前述のとおり、プテロイルモノグルタミン酸はサプリや加工食品等に添加されている葉酸の化学形態なので、この付加量はサプリ等で摂取した場合を示しています。食事由来の葉酸に換算すると、2倍の 800μg/日に相当すると言われているので、サプリを活用した葉酸の積極的摂取は一つの方法と言えます。