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日本人の英語力がダメ²な理由
言わずもがな日本人の英語力は低い。世界的な教育機関 EF Education Firstの調査結果を信ずるならば、調査対象国116国中92位である。文科省の調査によれば、高3の50%程度はCEFR A2(高1修了程度目安)、20%未満がCEFR B1(高3修了程度目安)。大学進学者の約6割は高卒段階で期待される英語力に満たない(これ自体も甘い数値と肌感覚では感ずる)。令和5年度全国学力・学習実施調査での中学3年の英語力では、聞く・読む力と話す・書く力の正答率の差が大きい(とはいえ、この調査問題そのものが難易度が高すぎて適切に測定できていないという分析もある)。
これを独断と偏見に基づき、理由を分析した。以下の4つの要因から構成されると考える。
1. 英語力の必要性の低さ
2. 大学入試から生ずる制約
3. 英語教員の英語力のばらつき
4. 入試対策を凌駕する指導法開発の難しさ
5 間違いに非寛容な文化
6. 英語教員の処遇
1. 英語力の必要性の低さ
言うまでもない。日本の社会人は、英語ができなくても就職、転職に不利になることはない幸せな環境にいる。英語ができて有利になることはあっても、≠不利になるではない。これでは英語を使えるようになりたいという動機づけに乏しい。切実ではないのだ。
2. 大学入試から生ずる制約
旺文社教育情報センターが公表した最新の分析によれば、大学入試の一般受験で入学する生徒の割合は40%を割ったとはいえ、一般選抜志願者の約60%が上位30大学に集中する。つまり、進学校ではこの枠へ生徒を入学させようと、発信能力を問わない一般入試対策の授業を行っていると推測される(Teaching to the test)。高2まで学習指導要領で示されているコミュニカティブで、技能統合的な指導を行っていたと(楽観的に考えたと)しても、高3になれば、共通テストや国公立二次試験、私立上位大学の英語テストの出題形式や出題比率に従った、ある意味「合理的な」指導がなされる(と多くの英語教員から伺っている。具体的なデータはない)。これでは発信能力は育成しようがない(とはいえ、聞く、読む力もあるかと問えば、それさえも怪しくなる)。
3. 英語教員の英語力のばらつき
では大学入試から英語が外されたと仮定しよう。日本の英語教員に4技能をバランスよく指導できる力はあるか。課題は山積である。指導の土台となる英語力について文科省は、CEFR B2(英検準1級程度)を基準として挙げている。目安としては、東大や東京外大、上智大入学(特に外国語学部)レベルに求められる英語力である。中学の英語担当教員はそこに到達しているレベルは、44.8%。半分以上の中学英語教師はトップレベルの大学に入る英語力がない。高校では80.7%。中学に比較すれば高いが、そもそもトップレベルに入学できるレベルの英語力で十分なのですか?という話である。ちなみに、その上のCEFR C1レベルに到達している高校教員は、約20%。高校教員の大部分は、教えるレベルではなく「教わる」レベルなのだ。
4.入試対策を凌駕する指導法開発の難しさ
以下は私の周りの英語教員の話であり、客観的なデータの分析結果ではないことに注意されたい。あるトップ進学校で、4技能の総合的・統合的指導を、高1入学時から3年間、自分の受け持ちの生徒に一貫して実践した中堅英語教員がいた(私の友人)。コミュニカティブな指導を試みた教員は英語科教員で彼一人とのことだった。模試等の成績は、例年に比較して勝るとも決して劣らない実績を挙げた。周りの評価はどうだったのか?ある意味、合理的な反応だった。「コミュニカティブな指導法で、従来の文法訳読式指導に比較して成果がはるかに上がるならば、指導法を乗り換えてもみよう。しかし、同じような成果ならば、なぜわざわざ苦労して新たな指導法を身に着ける必要がある?そこに合理性はない。」・・・成績が下がらないのであればコミュニカティブな指導へ舵を切るという考え方もあるが、どうしても人間は楽な方へ向かう。。。
5 間違いに非寛容な文化
これ、日本の特徴よね。間違い、言い換えると失敗に非寛容なの。これ、ビジネスでいうと、スタートアップ企業の少なさの原因の一つとも言われている。ある日本人の高名なビジネスコンサルタントが、スタートアップ企業が頻発するイスラエルの企業経営者から「3つのスタートアップから2つを成功させた人と、2つ失敗、1つ成功した人、どちらを高く評価しますか」と尋ねられたとのこと。回答は前者だった。しかしイスラエル人は後者。失敗から学ぶ経験の方が尊いから、という理由。つづりのミス、文法のマイナーなミスごとに減点をするような指導は、試行錯誤を繰り返しながら養成される言語能力育成には向かないのよね。
6 英語教員の処遇
これは単純な話、英語力の高い大卒学生は英語教員にならない。もっと、ペイの良い仕事に就く。決して教員自体の平均年収は一般に比較して低くない(TACのデータを参考に)。むしろ高いとは思うが、ある程度年齢を重ねないと年収が上がらない。また、一般企業でもっと羽振りのいい業界はあるしね。
・20代:約350万円~430万円
・30代:約450万円~550万円
・40代:約600万円~700万円
・50代:約700万円~800万円
じゃ、どうすんの?
もう、疲れた。端的に。合わせ技が必要と心得る。
1. 日本人の置かれた社会的要因
→どうしようもない。ほっておこう。
2. 大学入試から生ずる制約
→共通テストから英語科目を外す。
→各大学は英語を入試科目から外す代わりに、入学時に期待されるレベルを各技能別ないしは総合的な能力として公開する。入学時に期待レベルに達していない学生については、一定の猶予期間を与え、それでも満たない学生は留年。
3. 英語教員の能力不足
→3年以内にC1レベルに到達しない教員は配置転換。
→日本人英語教員を、修士以上の学位を持つ海外英語教員へと代替させる。
→AIによる個別指導と映像授業(知識レベル)を中心に据える。日本人英語教員は教えない。生徒のファシリテーターとして働く
4. 入試対策を凌駕する指導法開発の難しさ
→引き続き、研究
5. 英語教員の処遇
→英語教員ばかり厚遇はできない。現状の教員の給料で喜んで日本に来る海外の英語教育専門家は多数いると心得る。そちらの人々と代替すればよい。
現在の英語教育施策に則った連続的な進歩ではなく、非連続的な英語力向上を求めるには検討に値する提案と思うが,みなさまの反応はいかに?
*参照情報
英語能力指数 | EF 英語能力指数 | EF 日本
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