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市民ワークショップと野外彫刻展


60周年のその先へ

宇部市(山口県)の野外彫刻展「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」が、2024年秋に第30回展の節目を迎えた。この展覧会は、1961年の「宇部市野外彫刻展」に始まり、「現代日本彫刻展」から「UBEビエンナーレ」へと、名称の変更を経つつも、ほとんど形式を変えることなく受け継がれてきた。コロナ禍で開催延期を余儀なくされた2021 年は、60周年を記念する年でもあった。2023年3月に、主催者である市は、この60年の歴史と社会情勢の変化を踏まえ、今後のUBEビエンナーレの存在意義や持続可能なあり方を考えるため、ビジョン(今後の実施計画)の策定と市民ワークショップの開催を決定した。

2023年6月から9月にかけて、全3回の市民ワークショップ「これからのUBEビエンナーレを考えるワークショップ」が開催された。「行政主導」ではなく「共創」のプロセスにより、UBEビエンナーレの課題を市民と共有し、市民と共に、これからのUBEビエンナーレのありたい姿を考えるためである。

実は、UBEビエンナーレが50周年を迎えた翌年の2012年にも、市民ワークショップを開催している。この時の名称は「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)を考える会」。市内の団体に依頼するとともに、公募により市民の参加を募った。全7回開催し、2012年5月に「新たなスタート 世界一のUBEビエンナーレに」をスローガンとする提言書が市民から市に提出された。この提言を受けて2012年10月に、市民委員会「UBEビエンナーレ世界一達成市民委員会」が発足し、UBEビエンナーレに市民が関わっていく仕組みが整えられ、50周年から60周年に向けた期間、市民発案のUBEビエンナーレ関連イベントが様々に展開された。(ちなみに、2008年から年に2回、春分の日と秋分の日に彫刻の清掃活動を続けている「うべ彫刻ファン倶楽部」はこの市民委員会とは別組織であり、市民主導の活動団体である。)

また2018年~2019年には、市民ワークショップ「彫刻創造交流発信プロジェクト基本構想(仮称)ワークショップ」を全3回開催し、この時に出た意見は、「野外彫刻・アートによるまちづくり活性化プラン」としてまとめられた。野外彫刻の設置方針や、ミュージアム機能の強化、UBEビエンナーレのまちなか開催、彫刻教育の拡充など、彫刻の活用に関する様々な展開の可能性が、プランとして提案されている。

2023年の市民ワークショップ「これからのUBEビエンナーレを考えるワークショップ」は、これらの取り組みの上にある。2018年及び2023年の市民ワークショップの市民参加は、すべて公募に拠った。2012年の考える会から参加している市民もいれば、今回が初参加となる市民もいたが、全体として彫刻事業に関する知識が豊富で、それぞれに抱く関心事は異なり、問題意識が高く、活発に意見が出された印象であった。

第1回のテーマは【課題の抽出と共有】、第2回のテーマは【課題の解決法を探る】、第3回のテーマは【ありたい姿を考える】であった。第1回の課題の抽出の場面では、広報の手法や彫刻の市内設置、審査方法、出品作品、予算についてなど、多岐且つ踏み込んだ意見や疑問が出された。第2回の解決策を考える場面では、広報物のデザインや賞の発表時期、コンクールの基準についてなど、具体的で現実的なアイデアが交わされた。ワークショップの各回の様子は、ニュースレターとしてまとめられ、UBEビエンナーレのウェブサイトに公開されている。見た目は親しみやすいが、中身はかなり鋭い内容となっている。

さて宇部市では、この10年で3回の考える場を持ってきたわけだが、その都度、参加する市民が流動的であることも、オープンなワークショップのよい点かもしれない。広報の工夫、グッズの充実、観光コンテンツとしての魅力強化などは、10年前からほとんど変わらない話題ではあるが、50周年や第30回展という野外彫刻展の節目をきっかけに、市民が集い、彫刻事業、ひいては自らの住むまちの現状について、また将来のあり方について考える場があることは、宇部市にとって大きな財産であるといえよう。これからビジョンに示されるであろう野外彫刻展の未来もさることながら、市民ワークショップの未来も興味深い。60年前に、市民の声をきっかけに始まった野外彫刻展である。10年後、20年後にもきっと開催されるであろう話し合いの場では、どのような未来が語られるだろうか。

『屋外彫刻調査保存研究会 通信 No.67(2023. 10. 10 発行)』に寄稿した「60周年のその先へ 市民ワークショップを通して考える」を編集したものです。


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