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Tiny Little Happiness 〜たしかなことばをつづれ after tale

ぐらぐらとおぼつかないハンドルさばき。

「倒れないでくださいね。本当に大丈夫ですか?」

息を切らしながら、運転手は答える。

「夏希、お前はもう少し痩せた方がいい」

荷台に横座りの私は、抱えていた彼のお腹を軽くつねる。
「遼太郎さんこそ体力もっとつけてください!」

おわっ! と自転車が大きく傾く。

「お前な、腹をくすぐるのはやめろよ。運転中だぞ?」
「遼太郎さんが余計なこと言うからです」

澄まして答えると、彼は観念したように笑った。
「全く敵わないな、うちの女王陛下には」

運河沿いをずっとずっと、東へ走る。
しばらく行くと、見晴らしのいい、大きな公園がある。
私は何度か通ったことがある。
彼は初めて。

自転車を置いて、階段を登る。
柔らかな午後の日差し。
子供連れの親子が遊具で遊んでいたり、外国人の女の子のグループが民族衣装でダンスを練習していたり。発表会があるのかな。
ベンチでは年配の男性が読書している。小学生の男の子らが、好きなお笑い芸人の話をしながら自転車で追い抜いて行く。

彼は愛おしそうに目を細めて、そんなシーンを見ている。
日差しも、風も、全てを慈しむかのように。

私たちは手をつないでゆっくり、ゆっくりと歩く。

すみっこまでいくと見晴台のような場所があり、遠くに羽田から発つ飛行機が見える。そこには誰もいなかった。

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「私、たまにここへ来て、飛び立つ飛行機を見ながら、遼太郎さんのこと考えたりしてました」

横に並んだ彼は私をちらっと見た後、すぐに正面を、私と同じ方向を眺める。
今、飛び立っていったあの飛行機を。

「時間を超えていく飛行機が羨ましかったです。私も後先考えず、飛んで行って勝手に住みついたって良かったんですけどね」

「今思えば、か? あの頃は色々あったけど」

彼は私を優しく見おろした。

「寂しさや独りよがりに流されないようになってから、少し強くなったかも。遼太郎さんがその場に居なくても…、遼太郎さんの後ろ姿が思い浮かんで。真っ直ぐ伸びた背中が、なんか励みになったというか」

「後ろ姿だけ?」

「後ろ姿は、私が新入社員の頃から見ていましたから。そして誰もが、憧れていましたから」

遼太郎さんはさすがに少し照れくさそうに、視線を空港の方へ戻した。

「それに今は、時も何もかもを超えて、今があります。今ここに、遼太郎さんがいますから」

「この先は何があっても大丈夫?」
前を向いたまま彼が訊く。

「いえ、たぶん大丈夫ではないので、何があっても、離れません。遼太郎さんが行く場所に、どこまでもついて行きます。来るなって言われても、行きます」

繋いだ手に力がこもる。
あたたかくて、大きな手。

陽が西へ、だいぶ傾いてきた。

「寒くなってきた」
「そうですね」
「そろそろ家に帰ろうか」
「はい」

今度は私が彼を見上げる。

金色に輝く黄昏の世界で、あなたの横顔を見るのが好きだった。
ずっとずっと前から、
そして今も、
好き。

「帰りは運転代わって」
「えーっ? なんで私なんですか。男の人を後ろに乗せてこぐのは、さすがに無理です」
「じゃあ、いい。押して帰ろう」

ふふふ。
2人で笑う。ふふふ。

「晩ごはんなに?」
「ヒミツ」
「そこヒミツにするところじゃないでしょ」
「買い物に寄っていきましょ」
「決まってないなら決まってないって言えー」

ふふふ。

ふふふ。

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END


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