【連載小説】永遠が終わるとき 第二章 #3
大学を卒業して大手企業に就職した。
社会人になってからは、さすがにまともな恋愛をしなければ。
不倫は6年以上続いたのだ。高校、大学と、とても大事な時期に。
社会人になるまでずっと女ばかりの環境で育ったせいか、歯医者の元彼のせいか、同期入社の男性陣はみな幼く見えてしまう。軽い話題、もしくはわざとらしくインテリぶる。
物足りなく感じてしまう。
結局私の関心を引く男性は、やはり既婚者ばかりだった。そして彼らもよく声を掛けてくるのだ。
男性と話す時に左手の薬指をまずチェックするクセが付いたのはこの頃からだ。
私はひたすら間違った愛し方・愛され方をし続けた。
男性たちも私の若さ・美しさがただ良かっただけで『私』を心から大切にしてくれたわけではないと思う。
そんなことにも気づかず、20代を過ごした。
学生時代に引き続き、大切な大切な時間を失っていく。
最初の会社はハラスメントも多くなり、また大企業であるがゆえに競争も激しく、私は良からぬ噂に振り回されるようになる。
私も若かったから、ちょっとした態度で『噂』がすぐに広まり、陰口を言われたりした。
『あの子、不倫しそうな感じじゃない』
『お嬢様大学出ているからって、中身もお嬢様なわけじゃないのね~』
『いわゆる "枕営業" がお得意なのね。あれだけ美人だと男どももコロリなんでしょうね。怖い怖い』
悔しかった。
そんなことはしていない。
けれどそう言われても仕方はなかった。
そんな事もあって6年勤めた会社を辞め、やや規模の小さな会社に転職した。海外企業・海外ベンダーとの連携を強めていきたいと、折衝部署で英語通訳能力を即戦力とするとして採用が決まった。
余計なことに振り回されず、仕事に没頭しよう。そう決めて入社した。
そこで出会ったのが、野島次長だった。
OJTであり、直属の上司であるため、始めはそんな目で見るつもりはなかった。
いつものクセでチェックした薬指の指輪を見て、諦めのため息をついて、それで終わり、と思っていた。
けれどあまりにも彼の近くで仕事をした。
客先へも一緒に出かけたし、海外企業とのオンラインミーティングでも通訳の私がいらないのでは、と思うほど英語も、時にはドイツ語も堪能に交えて交渉しているのを見て、素直に尊敬した。
そして何よりも彼は信頼が厚かった。特に同僚、部下、後輩からは。
発言には全て自己責任を持ち、とにかく決断は早かった。だから同僚や部下たちはすぐに動くことが出来る。
恥ずかしながら、最も仕事が出来る人との出会いだったと言える。
だからやはりまた、いけない恋に落ちてしまう。
しかもこれまでで最も深く愛してしまう。
ただ彼はそれまでの男たちと違って、私に決して媚を売らなかった。
だからこそ長く想いが続いてしまった。
この世で最も長続きする恋は、報われない恋だ、ということの象徴のように。
けれど今、その最も愛した野島次長…今はもう部長だけれど…もうそばにはいない。
組織も変わり、彼は家族でベルリンへ赴任してしまった。
癒やしの同僚、飯嶌さんともセクションは変わってしまい、今までのようなほっこりするひと時も減ってしまった。
それでも時折は関わりのある仕事をするけれど、飯嶌さんはGL(グループリーダー)となって今までよりも少し "箔" がついたように思えた。
変わっていく。みんな、変わっていく。
私だけがあの頃から、何も、ずっと変わっていないような気がして、岸辺の見えない川の真ん中にひとり佇んでいるような気分だった。
どこへもたどり着けない。
第三章#1へ つづく