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【連載小説】421 第1話


👨‍💼野島遼太郎 とある中規模コンサル会社に務める入社4年目の26歳。カン・チェヨンが新人だった時のOJT担当。
👩‍💻カン・チェヨン 韓国出身。遼太郎の後輩で入社2年目。24歳。
👨‍💻土岐拓実 主任待遇で中途入社してきた。26歳。
👩‍💼野口純代 遼太郎の同期。26歳。

登場人物


皆さん、こんにちは。少しお久しぶりです。
私が誰だか、わかりますか?

なんて言ってもテキストだけでは分かりませんよね。
そもそも過去の作品をお読みになられていなかったら、誰もご存じないですね…すみません。

私、カンチェヨンと申します。
韓国・|京畿道〈キョンギドウ〉|軍浦〈クンポ〉市出身、ソウルのちょっとだけ南にある都市です。

韓国の大学を卒業したのち、姉が当時日本に住んでいたこともあり、自分も日本の会社に入るため来日。現在社会人2年目となりました。日本語は学生時代から学んでいました。

私の所属する企画営業部は社内でも花形部署と呼ばれておりまして(エヘン)、私はその第一課の営業マンなのです。マンではないですが、人間の、という意味でマンなのです。

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***

私が入社した時にOJTとしてついてくださった先輩・野島遼太郎さんは超超優秀な営業マン(そしてシリーズの主人公)…だったのですが、色々あって異動してしまい、第一線から退いてしまいました。

しかし部付となった野島さんは第一課から第三課、すべての課の若手社員の教育担当となりまして、幸いなことに課の垣根を超えて勉強会を開いていただいたり、仕事の相談に乗っていただいたり、そのお陰で私も今日に至る
まで成長することが出来ました。

そうですね…私はその方に一瞬の淡い恋心の錯覚を抱いた事もありますが、現在は心から尊敬する先輩…いえ、師と仰いで、早く野島さんのような立派な営業マンになれるよう、日々奮闘しております。

今回の物語はですね、もちろんその先輩についてのお話なのですが…。


ここからは私だけですと話が進みにくくなりますので、時間を少々戻しつつ語り手をバトンタッチさせていただきます。

ではまた、後ほどー。

アンニョン!!




メトロの出口から階段を登りきると、4月とはいえまだ冷たい風が野島遼太郎のうなじを撫で、思わず首を竦めた。
初々しいスーツ姿の若者たちが緊張と期待と不安の入り混じった表情で彼を追い越していく。

職場の近くにある桜並木は満開の頃合いを過ぎ、淡いピンクが鈍色のアスファルトに絶え間なく降り注いでいる。
見上げれば、枝にはすでに若い緑がのぞいている。

遼太郎は物憂げな眼差しを空に向けると小さくため息をつき、足早にオフィスに向かった。

新卒研修にも関わっているため、忙しい。とは言えこの時期、仕事に忙殺されるのは、ありがたいことだった。


🍀


新入社員たちが研修を終え、本配属される6月。

間もなく訪れる憂鬱な季節とは裏腹に、初々しく爽やかな空気がフロアのあちこちで溢れている。

2〜3年に一度、配属と同時期に大きな組織変更があるのもこの会社の特徴で、今年、それがあった。

これまで遼太郎の所属する企画営業部は、顧客先や案件の規模に応じて第一課から第三課に分かれていたが、この6月から
・事業戦略の企画提案・推進を第一課
・システム開発系プロジェクト推進を第二課
・調査・分析等リサーチマーケティングを第三課
と役割が分かれ、それに伴った大幅な人事異動が行われた。

さらに第三課では非常に若い主任が誕生した。それが入社4年目の野島遼太郎である。
彼も新卒で入社し、中堅の仲間入りを果たしてすぐの、かなりのスピード出世である。

もともと営業部門は若い人材が多く、近頃は年齢・年次関係なくリーダーシップやマネジメント力のある人をどんどんポストに起用しようという社長の方針から、斬新な人事が行われることがあった。

かつては企画営業部第一課の営業マンだった彼。売上トップを記録し続けていたが、新人に担当を任せ自らフロントから退くことを希望したのが昨年の10月。
理由は伏せられており、事情を知っているのは彼の上司である課長と部長の青山と社長、そして彼の同期の女性1人だけ。取引先の女性社員とすったもんだ・・・・・・があったから、自分を外して欲しい、と自己申告してきたのだ。隠しておけばどうってことなかったのに、彼のことを気に入っている部長は心底呆れたものだった。

『担当を変えるだけでいいだろ。フロントから退くほどでもない』
『いえ、一度頭を冷やす意味でも、一歩引いて現場を見ていきます』
『…ったくお前って本当に変なヤツだな』

で、あればと。青山は「お前のようなスキルを持った営業マンを量産してくれ」と、とんでもない命を下した。
そうして謹慎期間・・・・中の彼は若手の教育係になった。

その使命を受けて会社からは『企画営業部営業売上対前年比105%』を掲げられたが、遼太郎は「俺の指導の元でその目標が達成したと認められたら昇格させろ」と青山に直談判。

『お前、そのためにフロントを退いたのか』
『何事も経験ですから』
『まだ3年目の分際でよく言うな。営業経験は十分だっていうのか』
『まぁそうですね。十分じゃないですか。結果も出しましたし』

遼太郎は入社式で『俺は会社のトップになる』と宣言し良くも悪くも会場を沸かせたのだが、青山はそこですっかり遼太郎のことを気に入ってしまった。ある程度の言動や態度は構えているつもりだが、それでもとんでもないことを言ってくる男だと青山は唸る。

『やれるもんならやってみ、な』

言った青山は、彼ならやりきるだろうと確信していた。
結果、見事対前年比111%を達成し、この6月に辞令を受けたのである。

しかし、ガンガンとフロントを攻めていく花形中の花形・第一課ではなく、リサーチマーケティングの第三課というところに遼太郎はやや不満を覚えた。とはいえ入社4年目、ましてや『何事も経験』と言ったのは自分だ。

遼太郎の部下は入社1年目から7年目のメンバー。彼よりも歳も年次も上の者もいる。彼らの中には自分より後輩が上司になったことに不満を感じた者も多かったが、野島遼太郎という男は生意気が度を越しながらも頭のキレ具合も度を越しており、複雑な感情を抱かせた。まぁお手並み拝見、というわけだ。


目鼻立ちが整った精悍な遼太郎はいつも澄ましている。自信家で生意気な言動も多く、度々人を食うような態度に当然、一部の人間からは疎まれたり嫌われたりしている。ただ彼は仮にも元営業マンだから、外ではそれなりの愛想も振る舞うし、竹を割ったような性分が顧客の受けも良かったりする。

そんな様が一部の女性陣からは『クール』と映るようで、これまで多くの女性が彼に近づき、彼もまたゲームのようにそれらを楽しんだ時期があった。しかし前線を退いて以降、社内では硬派で通っている。

ことに業務においては男も女も関係ない。ただ男らしさ・女らしさなど、それぞれの特性や強みは活かすべきだと考えている。何でもかんでも平等・公平が正義だとは思っていない。時には世の風潮に逆らう。ビジネスは結果だ。理想だけではどうにもならないこともある。



6月、同時に同部でもう一件、新しい顔があった。
第一課に主任待遇で配属になった、中途入社の土岐拓実である。

歳は遼太郎と同い年。学生時代は海外留学経験があり、大学卒業後は大手外資系コンサル会社に3年勤めた。
最近ではかなり緩和されているものの、拓実の先輩らは "1日は30時間ある" と教わってきた職場で、拓実自身も案件によっては毎日タクシーで帰る生活を送っていた。
とある案件でこの会社と接点が出来、直々にヘッドハンティングされた。拓実も激烈ハードな業界の仕事としては一通りのことをやり遂げたとして転職を決めた。会社の規模は落ちても案外給料は悪くない。

で、あれば。

規模が小さければ比較的自由度が高く、しかも若い人のハンティングも含め率先して中途採用も行っている。社長もなかなかぶっ飛んた人と聞いている。企業の成長性を見ても面白いことが出来そうだ、と考えた。

そんなところは遼太郎と非常によく似ていた。


🤍


「土岐拓実と申します。いきなり主任と僭越ではございますが、前職の経験を活かし、すぐにお力になれるよう尽くしてまいります。本日より、どうぞよろしくお願いいたします」

色白で儚く繊細な美しい顔にやや小柄で華奢、少年か、はたまた少女かとまがうような愛くるしい笑顔を浮かべた拓実が全体朝礼でそう挨拶すると、女性社員らから悲鳴に近い声があがった。
「綺麗な顔~!妖精さんだね…」と囁きが漏れ聞こえると、遼太郎は嘆息した。

噂で聞いていた。主任として中途入社してくる男のことを。しかもヘッドハンティングで。自分は第三課なのに、中途入社が第一課の主任か、と相当気に食わなかった。

いまだ愛くるしい笑顔を振りまいている拓実は、過酷な外資系コンサル出身感は微塵もなく、むしろ無菌室育ちのお坊ちゃん風だったのも、遼太郎はことさら気に食わない。

同じ美青年でも硬派な印象の遼太郎とは対照的だった。さしずめ放つ雰囲気は遼太郎が黒なら拓実は白、遼太郎が悪魔なら拓実は天使といったところだ。


ただ黒と白、悪魔と天使は表裏一体で、裏返ることもあれば角度を変えた時に違った顔が見えることも…ある。






第2話へつづく


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