【連載】運命の扉 宿命の旋律 #36
Sonatine - 小奏鳴曲 -
萌花は2年生にして遼太郎の勤める会社のサマーインターンシップに参加した。
大学2年生で参加する学生はごく僅かで、その期の参加者で2年生は萌花だけだった。
それも全て稜央のためである。
7/21~8/末までの1ヶ月強の短期インターンシップ。
担当部署は受注販売管理の部門だった。そこは遼太郎の属する部門ではない。
初日は社内見学が実施された。
26階建てのビルの8階から12階が、その会社が入居しているフロアだった。
先導する人事の担当社員は、上の階からあそこが○○部で、と部署の近くまで行って細かく説明してくれる。
営業の部門を回った時は外回りに出ているのか、人が少ないのが印象的だった。
やがて11階のフロアに行き、背面全面が窓になっている一番奥が企画営業部だと紹介され、萌花は緊張した。
“いるのかな…”
しかし他の営業が付く部署同様、人は少ないように思えた。
役職者が座りそうな席には誰もいない。
“さすがにちょっとわからないな…”
島の席に座っていた女性が振り向き、目が合う。
あまりにも美人だったので、女性の萌花でさえドキッとした。
こんな人がいるのが企業なんだ、とぼんやり考えた。
* * *
初日の最後に先輩社員との座談会が開催され、萌花は自分についてくれた2人の先輩に質問を色々する中で、事前に調べておいたことをさり気なく質問してみた。
「ちなみに…企画営業部ってどんなことする部署なんですか?」
「企画営業部? 今回川越さんが参加するインターンシップと関係ないけど…まぁうちの会社で言うといわゆる花形部署よね。システム開発案件からリサーチ・マーケティング、物品の企画販売とか、海外の部門とも折衝とかしていて。モノを生み出す中枢って感じ。部の下には3つの課がぶら下がっていて、それぞれそんなことやってる」
「そうなんですね。面白そうですね」
「まぁ確かに人気あるけど、配属はなかなか難しいよ」
「そうなんですか?」
「花形なだけあって、精鋭が配属されるからね。あ、そういえば飯嶌くんって企画営業部だったよね」
先輩社員は別のグループの座談会に参加していた男性社員に声をかけた。その人は自分を指差してキョトンとした顔をしている。
「企画営業部の話を聞きたいなら、後で彼に訊いてみたら」
そう言ってその企画営業部の男性先輩社員を指した。
座談会終了後、早速その男性社員の元へ行った。
「はじめまして。○○学院大学社会学部2年の川越萌花と申します」
「あ、どうも。企画営業部の飯嶌優吾です」
「先程先輩から企画営業部のお話を少しだけ聞いて興味を持ったので色々お話聞いてみたいなと思ったのですが」
そう言うと優吾は目を輝かせて嬉しそうに言った。
「そうですか! ちょうど昨日部署の人と、うちの部は魅力的な部署だからインターンシップ受け入れればいいのにって話してたんですよ。でも部の意向で最近は新卒の配属もなくて、やらないっていうんです」
「花形部署と伺いました。皆さんエリートなんでしょうね。新卒の配属がないのは残念です」
「エリート…いやぁなんか照れるな。まぁでも優秀な人が多いのは確かです。新卒取らないっていうのも頭の固い部長の意向らしくて、僕の直属の上司でもある次長だったら絶対に新卒も受け入れしますよ。もったいないなって」
「次長…」
萌花は一気に緊張が走った。
「次長さんは野島さんという方ですか?」
「え? 次長のこと知ってるの?」
まさかもう本人の近くまで行き当たるとは、と萌花は高揚した。
しかし慌てて否定する。
「あ、いえ…知り合いの大学のOBでそんな方がいらっしゃると伺っていて…」
苦しい言い訳になったが、優吾が特に不審に思う様子はなかった。
「次長の大学の後輩がお知り合いなんですね。今回はインターンシップとして関わりは持てないんですけど、もしどうしても関心が、というのであれば社員にヒアリングとか可能かもしれないから、その時は言ってくださいよ」
「言うって…あの、飯嶌さんに、ですか?」
優吾は顎に手をあて、そうだよね~と唸った。
「人事の人にでもインターンシップ先の人にでも、関わっている人誰かに言ってみてください。企画営業部の飯嶌がヒアリングに来てみたらって言ってたと伝えてもらればいいと思います」
「ありがとうございます!」
萌花は頭を90度下げて優吾に礼を言った。
すごい。
インターンシップ初日で一気にチャンスを作れた。
稜央に早く報告しなければ、と思った。
* * *
終業後、早速稜央に電話をかける。
「稜央くん? インターンシップ初日、終わったよ」
『お疲れ様。どうだった?』
「企画営業部の人とコンタクトが取れて、もしかしたら部署にヒアリングとか行けるかもしれないの!」
『えっ? 何それ?』
萌花はたまたま座談会に居合わせた先輩社員で同じ部署の人がいて、しかもその人の上司が野島遼太郎であることも確認できたことを伝えた。
『え…初日でそこまで』
『うん、そうなの! 今日の社内見学では稜央くんのお父さんらしき人は見かけられなかった。でも11階に企画営業部があることもわかったよ」
『そうか…まぁ1ヶ月あるし、俺も8月になったらすぐにそっちに行くから。あと1週間とちょっと、な』
「うん…早く会いたい…」
『俺もだよ、萌花…』
稜央のためだけのインターンシップ。
家に帰ると稜央が待っていて抱きしめてくれる日々が早く、早く来るようにと、萌花はスマホを握りしめた。
#37へつづく