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【連載】運命の扉 宿命の旋律 #33

Capriccio - 奇想曲 -


稜央は思った以上の内容の書かれたメッセージに驚いたが、萌花が泣いて謝っていたことも気になった。
メッセージを読んですぐに電話をかけたけれど、出てくれなかった。

“何かがあったのか…?”

稜央は電話に出てくれないなら、とメッセージを送った。

萌花の様子がおかしいから本気で心配している。何かあったのなら話してくれ。俺たちはお互いの一番の理解者だろう?

それでもその日は萌花からの連絡は来なかった。

* * *

翌日に稜央は再びメッセージ送った。

萌花、頼む。電話に出てくれ。俺がおかしくなっちゃうよ!

すぐに既読がついた。稜央はその後の反応を焦れったく待った。
すると程なくして、萌花から電話がかかってきた。

「萌花!? 何かあったんだろう? どうしたんだよ? 言ってごらん?」

電話の向こうでは荒い息遣いだけ聞こえてくる。また泣いているのかと思った。
やがて震える萌花の声がした。

『稜央くん…送った情報、役に立てたかな…』
「も、もちろんだよ。家族構成に写真まで…そんなに詳しくわかるものなのか? どうやって調べたの?」
『…』
「萌花…もしかしてこの情報を入手する時に、何かあったのか? なんか嫌な思いしたとかじゃないのか? そうなんだな?」

再び電話口で萌花が泣き出した。
稜央は確信した。

「萌花、明日そっちに行くから。会った方がいいよな。待ってて」
『だめ! 今来ちゃだめ!』
「どうして!?」
『…いけないことしたから。稜央くん裏切って…いけないことしたから…稜央くんに会えない』
「…どういうこと…?」

そこで電話を切られてしまった。

稜央は不安で胸をいっぱいにしながらも時計を見やって、東京へ出る夜行バスの時間を調べ始めた。

* * *

結局その日の夜行バスに飛び乗り、翌朝には東京に着いた。
始発も動いていたので、萌花の住む郊外へ移動する電車に乗った。

萌花に東京に着いたことを念のためメッセージを入れた。
明け方にも関わらず既読がついたが、返信はなかった。

萌花のマンションの最寄駅からダッシュした。
徒歩だと15分ほどかかる距離だ。
稜央は途中で何度も立ち止まりそうになったが、こらえて走り続けた。


オートロックの付いているマンション。稜央は合鍵をもらっていた。
肺が痛くなるほど息が切れ、胸を抑えて鎮めた。
マンションに到着したから今から行くよ、とメッセージを入れた。

部屋の鍵を差し込み、恐る恐るドアを開ける。

ダイニングキッチンと部屋を仕切る扉は閉まっていた。

「萌花」

小さな声で呼びかけるが返事がない。
稜央は靴を脱いで中に入り、扉を開けた。

ベッドの上の布団が膨らんでいる。

「萌花」

再び呼びかけると布団が微かに動く。
稜央は近寄って布団をそっと剥がした。

泣きはらした萌花の姿があった。
稜央の顔を見ると怯えた顔をして布団を被ろうとする。

「待って萌花」

稜央は何とか萌花の身体を起こし、抱きしめた。
途端に萌花は大声で泣き始め、強く稜央を拒もうとした。

稜央は力づくでも抱きしめ背中を擦ると、萌花の腕が自分の背中にきつくしがみついてきた。

「萌花、一体どうしたんだ? 話してごらん。俺もうここにいるから、安心して話してごらんよ」
「言ったら…おしまいになる…稜央くんのこと…」
「ならない、絶対にならないから。話して」

萌花は嗚咽を上げながら、途切れがちに言った。

「寝たの…情報をくれた理工学部の学生と…男の人だったの…本当は女の人が良かったんだけど…うまく見つからなくて…早い方がいいと思って…その人…調べる代わりに…私を…」

稜央は頭を殴られたようなショックを受けた。

そしてすぐに、胸元から頭のてっぺんに向かって燃えたぎるように血が昇っていくのを感じた。

「誰...そいつはなんて奴なの…?」
「杉崎…」
「そいつが教えてやる代わりに寝ようって言って、萌花はOKしたのか」

萌花は首を振った。

「無理やり…でも2回目は…情報入手した後は…会わないと渡せないって言われたから…」
「待てよ! それって犯罪だろう!?」
「稜央くんがすごく知りたがっていたことだからって言い聞かせようと思ったんだけど…」
「萌花…」

稜央は更にきつく萌花を抱きしめた。

「ごめん…俺のせいだ。俺が萌花にこんなこと頼んだからいけないんだ。俺のせいだ。俺はなんてことをしてしまったんだ…」
「稜央くんのせいじゃない…」
「いや、俺がこんなことを頼まなかったら、萌花を傷つけることなんてなかった。俺のせいだ。俺が落とし前付ける」

稜央は怒りではらわたが煮えくり返った。

「理工学部の杉崎だな…」
「稜央くん…何しようとしてるの? やめて。怖いことはしないで」

稜央は萌花の頭を撫で、頬にキスをして言った。

「怖いことなんかしないよ。萌花、ごめんな。俺を許さないだろうな」
「許す許さないなんてないよ…」
「萌花、大好きだ。俺は萌花がいないと生きていけない」
「稜央くん、私も…」

お互いが震えながらもきつく抱き締めあった。

稜央は腹の底で復讐を誓った。



#34へつづく

※ヘッダー画像はゆゆさん(Twitter:@hrmy801)の許可をいただき使用しています。

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