秋にさくらえび。
さくらももこ先生のエッセイを紹介するシリーズ。
今日は「さくらえび」
作家としての地位を確立し、ご家族を呼び寄せて
一緒に暮らしていた頃の話が多い。
幼い息子さんとの攻防もあるよ。
「ヒロシのコイ」
鯉だよ、鯉。
父ヒロシとテレビを見ていたさくら先生。
そこで「水槽で飼えるコイ」というのをやっていた。
水槽で飼えるコイは、約10センチ位の大きさで売られており
あまり大きくならないように改良されていて
しかも体の色や模様が楽しめるような魚が選ばれているという。
それなのに一匹350円。
「いいな、コイ」と父ヒロシは言った。
「大きい水槽が一個余っているけど」
「おっ、そうか」コイ欲しさ丸出しの表情になった。
母もコイの値段を聞いて「安いね。それなら
飼うのも面白いかもね」と賛成の様子。
家族の反対無く、ヒロシの願いはやすやすと叶うのだった。
大きい水槽は玄関ホールの正面に置かれた。
今後、さくら家ではドアを開けたらいきなり
ヒロシのコイを見る事になるのだ。
ちょっとトホホだがそこしか置く場所が無かったのだ。
水質を一週間かけて作り上げた。
水質管理はさくら先生の仕事。
ヒロシは水を入れただけである。
さぁ、いざデパートにコイを買いに行こう。
保育園児の息子も保育園を休んで付いてくる事になった。
息子の面倒を見てもらうために、
新潮社の木村さん(レギュラー)と大森さん(マッサージ上手い人)と
カメラマンの広瀬君(レギュラー)が来てくれる事になった。
たかだかコイを買うためだけに
ここまでの人が動くのか・・。
車も新潮社のものを使わせてもらい、運転手付きである。
息子は運転手さんにずっと話しかけ、移動電話まで使わせてもらい
電話先の新潮社の人に大声で自分の名前を告げたりして満足していた。
・・・ヒロシのコイを買いに行くだけなのに・・。
人気作家ってみんなこうなんだろうか。
いや、さくら先生だからかもしれない(道中でのネタ欲しい)
さぁどうなる、ヒロシはコイを買えるのか。
そして、ちゃんと面倒を見られるのか。
「ヒロシのコイのその後」と併せて見てみよう。
「息子と絵本を作る」
息子は暇さえあればゲームをやっている。
だから「ねえ、一緒に絵本でも描こうか」と誘ってみた。
「お、いいねぇ。描こう描こう」と、予想以上にノッてきた。
「絵本って、何枚も絵を描かなくちゃならないし、
お話も考えなきゃならないからね。けっこう大変だよ」
「うんうん、知ってるよ。それがどうしたの?」
作家の苦労を軽くあしらう作家の息子。
タイトルは「おばけの手」に決まった。
気持ち悪いじゃんと抵抗したが、息子は楽しそうじゃんと
一歩も引かなかったのだ。仕方ない。
描き始めた一ページ目から
やはり墓場に手が出ている絵。
二、三ページと墓場の絵が続く。
どうせ五ページくらいで終わるだろうと思ったら
まさかの展開で二十ページに突入した。
結末はさくら先生にも分からない。
実際にこの作品は絵本として出版されたようである。
某大手通販ではプレミア価格になっていたが・・。
「おひなさまを買いに行く」
さくら先生と母は大のおひなさま好き。
お互いに幾つもの小さいおひなさまを集めており、
二月頃になると毎年それぞれの部屋に並べて飾っていた。
おひなさまは本当に可愛らしい。
一気に部屋が華やぎ、春が来たような明るさが
幸せな気分をもたらす。
このような伝統品があって良かった。
母が「ちょっと立派なおひなさまが欲しいんだ。
七段飾りの大きいやつ。貯金おろして買おうかな」と言った。
贅沢品に関してケチな母がそんな事を言いだすなんて
意外だった。おひなさま好きとして気持ちは分かる。
母の貯金なら文句は無い。思い切り立派なやつを買えば良い。
「買いなよ買いなよ、このさい人間国宝とかの
名人が作ってるおひなさまを買いなよ」と騒ぎ立てた。
母もその気になり、
名人に特注で作ってもらおうなどと言い
眼をキラリと輝かせていた。
「おい、そんなもん、ババァになってから
買ったってしょうがねぇじゃねぇか。
娘だってよォ、ももこは嫁に行って戻って来るし、
姉ちゃんはいつまでたっても嫁に行かねぇし、
一体何のためにでかいおひなさまなんて買うんだよ。
それによォ、うちにはそんなにでかいおひなさまを、
飾る場所もなけりゃ、しまっとくとこもねぇぞ」
父ヒロシにしては長くまともな台詞をぶつけられた
さくら先生と母は頭をパッと冷やされたのであった。
ババァと出戻り娘や嫁にも行かない娘のために
飾る場所もないのに名人のおひなさまがあるなんて
いくらちびまる子ちゃんちだからって馬鹿らしいにもほどがある。
それでも母とさくら先生のおひなさま熱は冷めきらなかった。
そして・・
「息子いましめビデオ」
横尾忠則先生の仕事場へ遊びに行ったさくら先生。
「まだ息子さんはさくらさんのことを
さくらももこだって知らないでいるの?」
「はい。まだどうにかギリギリでバレてないとは思うんですが、
うちに来るお客さんや友人がうっかり息子の前で
『さくらさん』って呼んじゃったりするんで、
かなり疑ってはいるようです」
「それはまずいじゃない。
ここでひとつ、絶対にさくらももこではないことを
強烈に印象づけておいた方がいいね」
横尾先生のアイデアは、
「嘘のテレビ番組を作ってさくら先生が出演して
『私はさくらももこじゃありません』と言う」であった。
当時作っていた雑誌「富士山」のスタッフに
この事を相談し、家庭用のビデオカメラ2台を使って
番組を撮ろうという事になった。
タイトルは『出版の会社こんにちは』
司会は新潮社の男性にやってもらう。
眼鏡と背広を着ればNHKのアナウンサーと
本人が言い張れば納得されそうな風貌だそう。
会社の仕事内容から始まり、
自分がさくらももこではないという事。
それだけじゃ足りない。
そうだ、わがままでえばりんぼの息子を
いましめる内容も盛り込もう。
わざとCMも入れて本格的に仕上がった
息子いましめビデオ『出版の会社こんにちは』
息子はいましめられるのか。
さくら先生はさくらももこじゃないと分かってもらえるのか。
乞うご期待。
「たけしさん来宅の思い出」
さくら先生とご両親は大のたけしファン。
「富士山」の企画でなんと、さくら家に
来てもらえる事になったのだ。
エッセイでは一年前の出来事となっている。
両親には秘密にしていたため、
玄関に現れたたけしさんを見た時は
本当にビックリしていた。何が何だか分からない様子。
ボンヤリ立ち尽くす父ヒロシ、
キャアキャア慌てる母。
そりゃそうだ。清水で暮らしていた時代から
たけしさんの番組を見て喜んでいた家族である。
そんなスターに会えるなんて考えた事も無かった。
そんな両親の姿を見て
たけしさんはどう思ったのだろう。
「富士山」という、さくら先生が作った雑誌も
全5冊持っているが、プレゼンするかは未定。
エッセイには無いエピソードもてんこ盛りであるのだが。
旅日記は写真もたっぷりで読み応え抜群。
たまに怪しい健康食品の広告もあるよ。
これも是非、見かけたら手に取ってみて欲しい。
私はかなり後年になって古本屋で見かけて慌てて購入した。
これは・・守るべきお宝だと。
「みんなで怒られた話」
さくら先生のスタッフと、絵本作家ののぶみ氏と
作家の鈴木光司氏(「らせん」の人)と、いつもの木村さんで
いっこく堂のライブに行った時の話。豪華メンツ。
ライブはもう感動の嵐。
帰りは「つな八」で食べて飲んで気持ち良く酔っぱらった。
店を出て建物の一階へ降りた時、
ちょうどのぶみ氏の絵本のポスターが張られているのを見つけた。
それを見て騒ぐ大人たち。
鈴木氏「よし、このポスターに、のぶみ参上って、
でっかく書こうぜ」と言って
本当にでっかく「のぶみ参上」と
太いマジックで書いてしまったのだ。
「ホラ、のぶみ参上って書いてやったから、
おまえ、サイン書けよ」と言って
マジックを渡した。
「じゃあ、書きます」
自分のサインを書くのぶみ氏。
関係無いのに自分のサインも書く
鈴木氏。続けて「おい、ポコリンも書け」と
さくら先生にも飛び火させてきた。
『ももこも参上!!』
そう書いて、鈴木氏のサインの横に
『「らせん」も参上!!』と付け加えてやった。
酔っ払いの文字だったから誰のサインだか
分からなかったのだ。
後を振り向くとそこには、
ひとりの男性が厳しい表情でこちらを睨んでいた。
警備員の人である。
「そこで何をやっているんだ」
チャララ~ン♪
黙るいい大人たち。
正しく答えるなら、
「のぶみのポスターにやたらと落書きをしていた」である。
さくら先生の交友関係は本当に幅広い。
のぶみ氏と鈴木氏は他のエッセイにも登場する。
探してみよう。
他にも、京都での学生時代の思い出や
しまなみ海道の旅日記など盛りだくさん。
必見のおならレポートもあるよ。何だそれ。
特にしまなみ海道の話はうどんが食べたくなって仕方ない。
未だに、うどんを食べに行くためだけに
行きたいと思っている。まだ実現は出来ていない。
クリエイターとしての仕事が上手く行きますように!!!
ありがとうございました。
是非読んで頂きたい一冊。面白さ完全保証。
まだ手持ちのさくら先生のエッセイはたっぷりあるので
ネタには困らない。まだ持ってないものもあるから読みたい。
最後に、スタンプ・・。
人生に一つは、広く愛されるキャラクターと言うものを
作ってみたいもんだなぁ。