翼よ、あれがマヨルカ島か!
(3)月子さんとノブちゃんへ
日本から20時間もかけてどうにかパルマに着いたのですが、今度はいくら待っても自分の荷物が出てこないのです。待たされること40分、同じ便で来た人たちが一人、また一人、そしてまた一人、自分の荷物をベルトコンベアから取り上げ、さっさと立ち去って行きます。最後に残ったのは、自分と一人の金髪の女性だけ。30代半ばでしょうか、スレンダーで長身、どこか月子さんと雰囲気が似ている素敵な女性です。スペイン語か英語ができたら話しかけているのにと口惜しかったです。
その夜は彼女のほうがラッキーでした。スーツケースが出てくると、さっさとその場から立ち去ります。でも、余りにも自分が絶望的な顔をしているのか、自分のほうをちらっと見るなり、空港の端を指さしました。見ると、その先には「IBERIA」というサインがあります。振り返ると、彼女の姿はもう消えていました。
ベルトコンベアがガーガーガーという無機質な音をたてながら、ぐるぐるとゆっくり回っています。自分は真夜中の異国で一人、たった一人でそこに立ち尽くしていました。
自分はあの女性が指し示してくれたイベリア航空のカウンターに走ります。
「ロストバゲージ!」
それしか知っている単語はありません。
「ロストバゲージ!」
スペイン人のオバサンが自分の顔を見るなり、まくしたてました。まったく何を言っているかチンプンカンプン。彼女はある方向を指差していました。振り向き、その方向に駆け出すと、柵の向こうに違うコンベアがあります。そこに自分のバックパックが寂しそうに、見捨てられた子犬のようにぐるぐると回っているではないですか。
自分はバックを赤ちゃんをやさしく抱きかかえるように拾い上げ、背中に背負いました。
月子さんとノブちゃん、後でわかったことですが、EU圏以外からの荷物は税関を通す必要があり、違うコンベアに乗ったのだそうです。それならそうとアナウンスするなり、掲示すればいいのにと憤りを覚えました。しかし、それは日本人的な感覚なのでしょう。笑ってしまうのは、もう真夜中なので税関のデスクには誰もいなかったことです。これぞスペインということでしょうか。早くも自分はその洗礼を受けたというわけです。
真夜中の1時をとうに過ぎていました。いまさらバスなんか走っているわけがありません。それにどこに行っていいものか皆目検討がつきません。普通ならスペインのガイドブックぐらい持参するのでしょうが、いきなりの旅立ちだったので、そこまで頭が回りませんでした。
また、メールします。
(続く)