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ゲリラ豪雨を、ケーキ屋の中から見た日


ゲリラ豪雨に遭っちゃった東京のみなさん


今日の関東の天気は不安定でした
激しい雷雨や土砂降りになったところも多かったそう

ケーキ屋アルバイターの私は、自動ドアのガラスの向こうの天気を一日眺めていました

午前中は、太陽が照っていた
ガラスの向こうの人たちは、半袖で忙しそうな顔を見せていました
お仕事中のように見える人たちも、そうでないように見える人たちも、元気な太陽の下にいるのをなるべく避けたいようで、日陰に向かって足早に歩いていきます

集団でおさんぽ中の園児たちはお店の方を見て、私に笑顔を見せてくれた
私は、手を振り返します
今日も良い日になるといいね

私が働くお店は駅のすぐそばなので、様々な目的を持った人たちの様々な顔を見ることができるのです
私は、ケーキケースと壁の間の空間から、人々と天気をよく眺めます

午前中は、暑かった
ケーキは、全く売れなかった
人は暑いと、ケーキを食べる気にはならないようです
お菓子やシュークリームを買いに来る人がたまーにいるくらい
店長と雑談し、在庫補充や記録などの雑務を時間をかけて終わらせていきます

お昼を過ぎると、外の光が少なくなりました
太陽の元気さは、身を隠してしまいました
しばらくすると、雨が降り出しました

雨は、たちまち強くなりました
打ち付けるような激しさを持つ雨です
雨と同時に風も強くなったようで、雨は風の力を借りて勢いを増しているようでした

「降ってきたね」「きましたね」「今日はもうだめだな」

雨の日もまた、ケーキは売れません
一刻も早く屋根のある場所に帰りたい人たちには、駅前のケーキ屋さんは目に入らないのです
雨の下にいた後に食べたいものってなんでしょう
温かい家庭料理とかじゃないでしょうか

今日はもうだめだな
私はケーキケースと壁の間の空間から、荒れている外の様子を眺めました

駅からは、人々が飛び出してきます
傘を持っている人は、風に傘が持っていかれないように強く握りしめて、下を向いて、雨の世界を素早く踏み締めていきます
傘を持っていないけど飛び出していく勇敢な人は、走り出しちゃっています
彼らも下を向いて、顔が濡れないようにしながら
雨に打たれる顔を見られたくないのもあるかもしれません

とにかく、激しい雨と風です
精神力と体力が削がれそうな
負けるものかと立ち向かっていく人たちの様子から、その激しさが窺えました

駅の中には、人々が溜まっていました
誰かによるお迎えを待っているのでしょうか
それとも、雨が止むのを待っているのでしょうか

ゲリラ豪雨特有のスピードで荒れ始めたので、すぐ止む可能性は高かったのですが
あの激しさの前で天候の回復を望むと、時間が長く感じることでしょう

何かを待っている人たちは、時間と空間を共有していました
駅、雨、風、傘なし、月曜日、午後、待つ、行かなきゃ、どうしよう、待つ
あらゆる条件が一緒で、同じ場所に滞在している彼らは、一つの共同体のようでした
しかし、互いに言葉を交わすことはないのが、冷え切った関係を表していました

私は、ケーキケースと壁の間の空間から出て、自動ドアのガラスの前まで行きました
彼らには、私の姿は見えているのでしょうか
外の荒れた世界から、中の世界でケーキ屋アルバイターの私がじっと見つめる様子は、見えているのでしょうか
彼らの世界との繋がりを求めたいような気がしました
だってきっと彼らにとって想定外の日、色々なことがあった日、そこに一つの要素を追加してみたかった
チラシを頭上に掲げてみたりします
見えていますか

ゲリラ豪雨はやっぱり長くは活動せず、夕方には撤退していきました
人々は、前を向いて駅から出ていきました
冷え切った共同体は、解散しました

私は出番がなかったビニール傘と共に、ケーキ屋を退勤しました
地面はどこもびしょ濡れで、ここで葛藤した人々がいるということを示していました
みんな、どこに行ったんだろう

ケーキが売れず、業務が少なくて、外ばかりを見ていた日です
ゲリラ豪雨は私の今日のシフトに、非日常を見るという楽しみをもたらし、豊かさを足してくれました
天気はその下で生きる人たちの1日を変えるのだということを、身をもって感じた6月初めの一日のお話です


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