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素直になれたら

— PM 10:00

久々に懐かしい香りに包まれて、いつの間にか眠っていた。けれど、隣にその香りの主はいない。

彼は、少し離れたところでスマホをいじっていた。

寝ぼけ眼で、その姿を見つける。
久々に見るその姿に愛しさと、こんなに近くにいるのに触れられない寂しさが、同時に押し寄せて来る。

「ねえ、こっちにきて」

ただ一言、そう言えば、彼は来てくれる。
けれど、出かかったその言葉を私は飲み込んだ。

「電気、つけてもいいよ?」

それが精一杯だった。

「いや、いいよ。眩しいでしょ」

その一言に隠された想いを汲み取ってくれるような人ではない。そんなこと、わかっているのに。一体、私は何度こうやって、勝手にした期待を裏切られて、勝手に傷付いていけばわかるのだろう。

そう言うと、彼は1度こちらに向けてくれた顔を、またすぐスマホに戻してしまった。

「好き」という言葉も
「触れてほしい」という願いも

決して不純なものではないのだけれど、むしろあまりにも純度が高すぎて、私にはしんどいすぎる。きっとこれは、私が生み出すことのできる1番純粋な想い。

純粋で、無防備で、簡単に壊れてしまいそうで。

だからこそ、いつも口に出すのを躊躇してしまう。

スマホの画面に熱中している彼の姿も、そんな情けない自分も、嫌になってまた布団をかぶって、目を閉じる。

どれくらい時間が立ったのだろう。左側に彼の体温を感じる。懐かしい匂いと幸福感に包まれて、私はまた眠りについた。

「好き」

明日こそ、ちゃんと伝えよう。そんなことを思いながら。

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