「特技:不幸探し」
これといって悪いことなんて、なかったはずなのに。家へと向かう私の足は、こんなにも重い。
何か忘れた仕事はなかったっけ。
ああ、あのときはもっと、
こうすればよかったな。
すれ違う陽気な大人たちからはお酒の匂い。
頼むから、もう少し静かに。
ああもう。
歩道いっぱいに広がらないでくれ。
空いていたはずのお腹は
なんだかもやもやでいっぱいで。
そういえば。洗えなかった食器が
シンクに残ったままだ。
特に食べたいもののも、
この虚しさを埋めるスナック菓子を買う
お金もない。
これといって悪いことなんて、なかったはずなのに。いつの間にか、こんなにも「不幸」だ。
何かをやらかしてちゃんと凹んだ日よりも、こうやって気付けばぼんやりと「不幸」探しをしてしまう日のほうが何十倍も性質が悪い。白かったはずのオセロがどんどん黒くひっくり返っていく。
たぶん私は「不幸」を探すのが得意なんだと思う。「特技:不幸探し」なんて絶対どこにも書けないけれど。
だってほら。
こんな日に限ってちっとも眠くならないし。
聴きたくなるのも、流れてくるのも、
哀しい歌ばかり。
明らかにスピード違反の速度の車。
少し後ろから鳴り響くパトカーのサイレン。
お願いだから。
夜くらい、家で静かにしててくれ。
こうなってしまったらもう、手遅れ。大好物のアイスも、絶好調と書かれた占いも。何もかもが「不幸」に変換されていく。
もう、抗うつもりも、気力もない。
電気を消して目を閉じる。
頭の中をグルグル回っている「不幸」たちを私は、ほうっておく。捕まえるつもりも、消し去るつもりもない。ただ自由にさせておく。遊び疲れたら、どうせ勝手にどこかへ帰っていくと知ったから。
どうぞ、ご自由に。
ああ、もう。こんな時間か。
ねぇ、ほら。
きっと君も「不幸」を探してる。