Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第82話 カジノの驚異的な収益構造
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/n7e6e75d3286b
この話は2024年の初頭に遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日、シンガポールにいた。氷堂はマレーシア在住だが、クライアントとの打ち合わせのため、月に2回ほどはシンガポールへ出張をしている。
さてこの日、氷堂は1人ではなく、ポートクランからMr.リムを同行していた。リムは氷堂と同じく、ポートクランで物流会社を経営している。既に年齢は50代半ばに達しているが、若くして起業し、当地でのビジネスを大成功させ、大きな財を成した。氷堂はマレーシアに会社を構えて8年になるのだが、その間、リムは事あるごとに氷堂へ仕事を紹介してくれた。この日、氷堂がシンガポールを訪れたのも、リムが紹介するクライアントと会うためだ。ちなみに多くの中華系マレーシア人は本名とは別に英語名を持っているのだが、リムはそれを用いず、常に中国語名を使い続けている。ここからも、リムの自分のルーツに対する強いこだわりを垣間見ることができる。
さて商談を終えたところで、リムは言った。
「リツさん、今晩はお忙しいですか。もし宜しければ、カジノにご一緒しませんか。マリーナベイ・サンズのカジノです」。
そう言うとリムはニコリと微笑んだ。
マリーナベイ・サンズとは、2011年2月に開業したIR(統合型リゾート施設)の事で、その一角にシンガポールで唯一のカジノが運営されている。ここには500台のテーブルと1600台のスロットマシーンが並べられており、単独としてはアジア最大級のカジノになる。
その言葉を聞いて、氷堂も答える。
「お誘いありがとうございます。夜の予定は空いています。ただカジノですか…正直なところ、賭け事には余り興味がないのですが...」
困惑する氷堂を他所に、リムは言葉を続けた。
「大丈夫ですよ。リツさんは別に賭けに参加しなくても問題ありません。VIPルームを手配していますから、一緒に飲むだけでも良いでしょう。何よりあの雰囲気は格別です。是非ご検討ください」。
そう言うとリムは再び微笑んだ。その笑顔を見て、氷堂も答えた。
「分かりました。それではご一緒します。ただ勝手が分からないので、ご迷惑をおかけしないように注意しますね」。
頭を下げる氷堂に、リムはこう言った。
「That's the ticket!」
これは英語のスラングで、日本語で言えば「そう来なくっちゃ!」に近い意味合いの言葉だ。マレーシア人やシンガポール人は、こういった英語特有の言い回しを余り使わない。しかしリムは学生時代にアメリカに留学していたこともあって、このようなスラングを頻繁に用いる。とはいえ発音は完全なマレーシア英語で、そのギャップが非常に興味深いところなのだが。さらにリムは言葉を繋いだ。
「マリーナベイ・サンズのカジノは最高です。何よりここほど『クリーンな』カジノは存在しません。世界中にカジノは多くありますが、本当に百社百様で、それぞれのカジノに良い点と悪い点があるんです。例えばマレーシアのゲンティン・ハイランドにもカジノがあるでしょう。逆にあそこはカオスで、人間の一番汚い部分を垣間見ることができます。あそこはあそこで面白いんですがね」。
リムの言葉を聞いて、氷堂は改めて考えた。なるほど、一口にカジノと言っても、その内実は様々な訳だ。そう言えば日本でも、大阪を筆頭にカジノの誘致が全国で行われている。ではクリーンなカジノとそうでないカジノ、また収益が上がるカジノとそうでないカジノの間には、一体どんな差があるのだろうか?そして日本のカジノは、どちらの方向へ進もうとしているのだろうか?それを知りたいと思った氷堂は、リムの話にさらに耳を傾けた。しかしその後に氷堂が目にしたのは、カジノの驚異的な収益構造と、そこに群がる人々の悲喜こもごもの人間模様だった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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