見出し画像

「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第70回 日本の過疎化はどれだけ深刻化しているのか?

 2024年1月1日午後4時過ぎ、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生しました。この地震により、石川県志賀町で震度7の激しい揺れを観測したほか、七尾市や輪島市、珠洲市、穴水町でも震度6強の揺れが観測されました。この記事を書いている1月15日時点で、死者数は221名、避難生活者数は19,014人に達しており、この地震による被害の甚大さが日に日に明らかになっています。
 
 一方で石川県の能登地域は、この10年で人口が17%も減るなど、深刻な過疎化や高齢化に悩まされてきました。例えば高齢化率は珠洲市で51.6%に達しており、最も低い中能登町ですら37%になっています。これは全国平均(29%)や石川県全県平均(29.8%)と比較しても、非常に高い数値です。今回の被害が拡大した背景に、過疎化の問題があったことを指摘する識者も少なくありません。
 
 それで今後は長い時間をかけて復興が進められていくと思われますが、その上で過疎化の問題は切っても切り離せません。過疎化が深刻化する地域でも完全に元通りに復興すべきなのか、それとも限界集落の住民に関しては街場へと移住を促すのか、今後は議論が深まっていくものと思われます。何より過疎化は能登地方に限らず、全国的な問題です。それゆえに能登地方の復興は、これからの日本の試金石になる可能性があるでしょう。
 
 ではどうすれば日本が進むべき方向性を理解できますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、日本の人口がどのように推移してきたのか、その動態を知ることができます。またそれにより、過疎化が進んでいる地域や、その地域の自治体が取り組んできた対策も理解できます。こういった統計を調べれば、日本の過去の歩みを知ると同時に、現在抱える問題も浮き彫りになるに違いありません。
 
 一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も調べる必要があります。近年、少子高齢化は日本だけに限らず全世界的な傾向となっており、都市への一極化も多くの国で見られます。こういった状況下において、それぞれの国がどのような施策を取っているのかを調べることは有用です。それにより、世界の中で日本の置かれた正確な立ち位置を理解することができ、他の国々も参考にしながら、最適解を見つけ出すことができるかもしれないからです。それ故に海外の統計も重要と言えます。
 
 ただ統計からは見えて来ないものがあります。それは当事者たちの「生の声」です。たとえ過疎地域であっても、長年住んできた人にとってはそこが故郷であり、強い愛着を持っています。そして日本が民主主義国家である以上、彼らの声を無視して強制移住させることもできません。一方で過疎地域を維持するのにもコストがかかり、その財源も限られています。こういった実情というものは、当然ながら統計からは見えてきません。一人一人の声に耳を傾けて、初めて理解できるものです。それ故に統計に加えて、「生の声」を聞くことも重要なのです。
 
 この点で私自身も田舎の過疎地の出身です。私の両親は70代ですが、車の運転が困難になったのをきっかけに、数年前に築古の一軒家を手放し、同じ自治体内で交通の便の良い狭いマンションへと引っ越しました。これにより買い物や病院に徒歩で行けるようになり、QOLが大幅に向上したと観察しています。加えて私は今マレーシアに住んでいますが、この国も日本以上の勢いで都市への一極化、および過疎化が急速に進んでいます。例えばカンポンと呼ばれる集落の数は激減しており、廃村も増えています。逆に都市開発のスピードは日本と比較にならないほど速く、日本ならば20年はかかりそうな都市開発が、土地の接収も含めてわずか2~3年で進むケースも少なくありません。このように日本においても、また海外においても、私は過疎地の現実を目の当たりにしてきましたので、この過疎化の問題を語る上で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本の過疎化はどれだけ深刻化しているのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本の過疎地域における人口動態がどのように推移してきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、諸外国の過疎化の実態を見るとともに、各国で取られている対応策を俯瞰します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の過疎化の特異性を考察するとともに、今後の進むべき方向性に関して提言を述べたいと思います。地方自治の在り方に関心をお持ちの方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

ここから先は

6,926字 / 7画像
マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?