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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第20話 非情なリストラの現実

前回の話はこちらから

https://note.com/malaysiachansan/n/nd08d2b0b3c77?magazine_key=m0838b2998048

 この話は2013年にまで遡る。この当時、氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は香港のフェータイル社(仮名)で働いていた。フェータイル社はコンテナリースの業界では世界の五指に入る会社で、世界中でコンテナリースの事業を展開しており、東南アジアや欧州、米国にも支社を構えていた。ただその中でも最も強みとしていたエリアは中国~東南アジア地域で、この航路においては世界一のシェアを有していた。

第20話 香港の港

 一方で香港本社の従業員はそこまで多くなく、全員合わせても80名程度だった。つまり少数精鋭でビジネスが展開されていた訳だが、従業員の内の7割がローカル、3割が外国人で、日本人は氷堂しかいなかった。氷堂はフェータイル社で働き始めて4年目だったが、主に新規ビジネスの開発を扱う部署に属しており、チームのサブリーダーに抜擢されていた。

 さてフェータイル社では毎週月曜日の朝に朝礼が計画されており、全員がオフィスにある大会議室に集う事になっていた。そしてその際には、必ず副社長のアレックスから社員全員に向けた話があった。ちなみにアレックスという名前からは欧米人を連想するかもしれないが、彼は50代の小太りのコテコテの香港人だ。長年イギリスの統治下にあった香港では、欧米系の名前を付ける習慣がある。そのアレックスにはフェータイル社の全権が委ねられており、月曜日の朝礼の際には、週次の目標達成率などについて話されるのが常となっていた。

 さてある月曜日の朝、いつもの様にアレックスは社員に向けて話を始めた。

「皆さん、おはようございます。皆さんの努力のお陰で今月も何とか目標に到達できそうです。ところで今日は、皆さんに紹介したい人がいます。この度、弊社ではコンサルタントを雇う事になりました。このコンサルタントを中心に、それぞれの部署において業務の効率化に励んで頂きたいと願っています。彼は海運業界の財務のプロフェッショナルなので、我々は彼から沢山の事を学べるでしょう。それではコンサルタントのダニエルを紹介します。」

 そう言うと、伸長190cm近くある西欧人の男性がアレックスの横に立った。年齢は見たところ40代前半でフチなし眼鏡をかけており、いかにも「仕事ができる男」という雰囲気を醸し出していた。そして彼を見て、氷堂を含めた多くの社員が警戒感を持った。これはどこの会社でもそうだと思うが、一般的にコンサルタントと呼ばれる人達は、総じて現場を知らず、時に横柄な態度を取る事で知られている。社員たちの多くも、ダニエルがそのような人物なのではないかと疑ったのだ。しかし紹介を受けたダニエルが話し始めると、社員たちの予想は良い意味で裏切られる事になる。非常に礼儀正しいナイスガイだったのだ。

「紹介にあずかりましたダニエルです。この度は皆さまとご一緒に仕事ができる事を本当に嬉しく思います。私はオランダ人で、オランダに本社があるコンサルティング会社の香港支社に勤務しています。今回は貴社とご縁があり、ご一緒にお仕事をさせて頂く機会にあずかりました。私は皆さまと一緒に汗を流し、一緒に問題を解決していきたいと願っています。まずその為には、皆さまの力が必要です。どうか色々と教えて下さい。ご迷惑をおかけする事も多いと思いますが、何卒宜しくお願い致します。」

 わずか2分に満たない自己紹介であったが、それは社員の心を掴むのに十分なものだった。物腰の柔らかい雰囲気、温かい口調、そして何より礼儀正しさ、社員たちはその様子を見て、「彼となら一緒に仕事が出来そうだ」と思いを変えた。その結果、ダニエルは拍手を持って社員たちに迎えられる事になった。

 しかしこの時点では、わずか3か月後に想像を絶する規模のリストラが計画されているとは、氷堂を含め社員の誰も予想できなかった。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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