Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第73話 イスラム金融の仕組みと将来性
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/ndd31af12267d
この話は2017年に遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、車を走らせていた。この前年に香港の親会社からの辞令でマレーシアに来た氷堂は、会社の立ち上げや従業員の採用、更には許認可の申請など、寝る間もないほど忙しい毎日を過ごしていた。その甲斐もあり、地場の物流会社との新しい契約が、一つ、また一つと決まっていった。
さてこの日、氷堂が車で向かっていたのは、新しい取引先の一つで、クアラルンプールから北西に50kmほどの距離にある「プンチャック・アラム」という街だった。この辺り一帯は、もともと鬱蒼とした山地だったが、1990年代後半にブキット・チェラカというデベロッパーが開発を始め、山を切り開いていわゆるニュータウンを造成した。この開発は今も続けられており、プンチャック・アラムの総面積は約57㎢、人口も27,000人に達している。
その街の外れに、ファイザルの会社はあった。ファイザルは50代のマレー系の男で、この地に物流会社を起業して約15年になる。彼の会社の敷地は非常に広大で、その中に無数のコンテナが積み上げられ、複数の重機も待機していた。応接室に入ると、既にファイザルはソファに腰を下ろし、氷堂の到着を待っていた。そして言った。
「リツさん、わざわざこんな山奥まで足を運んでいただき、本当にありがとうございます」。
ファイザルは満面の笑みで氷堂を迎えた。それで氷堂も返した。
「とんでもないです。こちらこそ今回は貴重な話をいただき、本当に感謝しています。それにしてもこの立地には驚きました。山間部にこんな立派な街が造られているとは、予想を遥かに超えていました」。
氷堂の言葉を聞き、ファイザルも言葉を繋げた。
「まぁ驚かれるのも無理もありません。今はクアラルンプール近郊の土地代が高騰していましてね、これだけ広大な土地を安価で確保できるのは、ここプンチャック・アラムくらいしかありません。一方でここは公共の交通機関も限られていて、1日に2本くらいしかバスが来ません。なのでその分、仕事に専念できます。うちには外国人の従業員も大勢住み込みで働いているんですが、彼らも山奥なので逃げられませんからね」。
そう言うとファイザルは大声で笑った。彼の言葉が冗談なのか冗談でないのか、氷堂も判断しかねたが、その後もファイザルも我に返ったようで、氷堂とコンテナのオペレーティングリースの商談に入った。そして打ち合わせも佳境に入った頃、ファイザルは言った。
「そう言えばリツさん、うちの会社のローカルはマレー系で、私も含めて全員がムスリムです。また外国人労働者も多いのですが、彼らもムスリムです。もちろんリツさんやリツさんの会社の社員がムスリムでないのは承知しています。それは何ら問題ありません。ただ恐縮ですが、取引の銀行口座は下記でお願いできれば助かります」。
そう言うとファイザルは、銀行口座の書かれたメモを見せた。そこには次のように書かれていた。
Bank name: AmBank Islamic Berhad
Account number: 294927100××
その文字を見て、氷堂は言葉が漏れた。
「イスラミックバンク…つまりイスラム金融ですか…」
イスラム教では利子を取ることがシャリア法によって禁じられているため、独特のルールに基づいた金融取引が遂行される。これを総じて「イスラム金融」と呼ぶ。この点でイスラム銀行をメインバンクにする企業も、大抵はそれ以外の普通銀行の口座も有しているのだが、今回ファイザルは敢えてイスラム銀行を取引口座に指定してきた。しかしこの時点では、氷堂はイスラム銀行と取引をしたことが一度もなかった。氷堂は悩んだ。ただイスラム金融について調べる良い機会だと考えた。そしてその後に氷堂が知ることになったのは、イスラム金融の極めて合理的なシステムと、急拡大を続ける成長性の高いマーケットだった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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