「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第59回 グローバルサウスの要衝、パキスタンの現実
2023年7月30日から8月4日にかけ、パキスタン投資庁の大臣であるチョードリー・サリク・フセイン氏が来日しました。この来日を通して、フセイン氏は日本政府にパキスタンへの支援の強化を要請しており、日本政府側も積極的にそれを検討しています。パキスタンは歴史的に中国との繋がりが非常に強い国ですが、パンデミックによるロックダウンの影響でビジネスが滞るという苦い経験を味わったこともあり、現在は新たなパートナーとして日本に声を掛けている状況です。
確かにパキスタンは2億5000万人弱(2023年推計、米国中央情報局)という巨大な人口を抱えており、その規模はインド・中国・アメリカ・インドネシアに次ぐ世界5位となっています。また北に中国、東にインド、西に中東と国境を面しており、グローバルサウスの要衝中の要衝に位置するといっても過言ではありません。何よりもパキスタンは世界で9か国しかない核保有国の一つです。
一方で日本との関わりも深く、これまで日本政府はパキスタンに対し、多額のODAによって援助を続けてきました。ただその実態がマスコミで扱われることは少なく、パキスタンについて関心を持つ日本人も僅かです。しかしその地政学的な重要度を考えるならば、私たち国民一人一人がパキスタンについて正しい理解を得ることは重要と言えるでしょう。
ではどうすればそれを知ることができますか?この点で統計は有用です。日本の統計を調べれば、これまでパキスタンに費やしたODAの額や、それにより両国の貿易がどのように発展してきたのかを知ることができます。それは過去の歩みを知ると共に、現在の両国が抱える問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
しかし日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計にも注目する必要があります。現在もパキスタンは高度経済成長を続けていますが、その後ろ盾になっているのは中国です。また長年にわたりインドとは犬猿の仲ではありますが、一方で宗教的背景を共にする中東とは良好な関係を続けています。加えてパキスタンは世界屈指の外国人労働者の輩出国として知られており、例えばイギリス・ロンドン市長のサディク・カーン氏の父親も、パキスタンからの移民です。このようにパキスタンという国は、21世紀の世界のパワーバランスが凝縮したような国です。それゆえにその実態を知るには、世界の統計にも目を向ける必要があると言えます。
ただ統計からは見えて来ないものがあります。それは現地で生活する人たちの「生の声」です。例えばパキスタンは貧富の差が激しく、非常に裕福な財閥系企業が幅を利かす一方で、1日1ドル以下の水準で生活する貧困層も多数います。こういったある意味底辺にいる人たちの実態というものは、なかなか統計からは見えてきません。それゆえに「生の声」に耳を傾けることは重要なのです。
この点で私はマレーシアの港湾で会社を経営していますが、パキスタン最大の港であるカラチ港にもクライアントがいます。港湾というものは、その国の経済の縮図です。貿易の最前線を知ることができると同時に、港湾労働者の多くは超低賃金で働いており、とてつもない格差を目の当たりにできます。加えて私がいるポートクランには約18,000人の就業者がいるのですが、その9割は外国人労働者で、パキスタンからの移民も大勢います。さらにこれは過去のnoteでも何度か書いていますが、弊社の現場のリーダーもパキスタン人です。私は彼らと実際に意見交換できる立場にいる事から、「生の声を聞く」という点で確かに有利な立場にいます。
それで今日は「グローバルサウスの要衝、パキスタンの現実」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本とパキスタンの関係を振り返ります。次に世界の統計を通して、パキスタンの経済成長や、各国がどのようにそこに関与してきたかを考えます。最後に私自身の海外における会社経営の経験を踏まえながら、今後の日本とパキスタンとの関係性について、考察と提言を述べたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ここから先は
ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?