
「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第91回 日本の働き方改革は本当に正しいのか?
2024年10月4日、石破首相は衆院本会議の所信表明演説に臨み、その中で働き方改革についても触れました。石破氏は短時間勤務の活用や勤務間インターバル制度の導入を促進する事で、今後も働き方改革を推進し、過重労働から国民を守る決意を表明しています。

確かに振り返ってみますと、働き方改革に関する法律が施行されたのは2018年で、既に6年が経過しました。つまり「働き方改革」というものは、労働時間を減らすための単なる合言葉ではなく、法制化された目標の訳ですが、一方でこの6年の間に、日本の雇用環境も大きく変化しました。コロナ禍を経て、今では人余りの時代から人手不足の時代に本格的に突入しています。ですから一度立ち止まって、本当に日本の働き方の方向性が正しいのか、熟考するのは適切と言えるでしょう。
ではどうすればそれを理解できますか?この点で統計は重要です。統計を調べれば、日本の労働時間や正規非正規の分布、さらには過重労働がどのように推移してきたのかを理解できます。それは過去の労働の歴史を教えてくれると共に、現在の日本が抱える構造上の問題も明らかにしてくれるかもしれません。ですから統計は大切と言えます。
一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も調べる必要があります。確かに昨今の日本では労働時間の減少が見られますが、それは日本だけの話ではなく、世界的な潮流で、特に先進国ではその傾向が強く見られます。しかし同時に他の先進国を見てみると、生産性は総じて高く、その中で労働時間を減少させてきました。逆に日本は生産性が上がっていないのにもかかわらず、労働時間を減少させています。加えて世界を見渡せば、東南アジアをはじめとした新興国では、労働時間が先進国よりも遥かに長く、昔の日本のような「がむしゃら」に働く様子が今も見られます。こういった各国の状況を比較考量するならば、日本の労働環境の特異性もより見えてくるに違いありません。それ故に海外の統計にも注目する必要があります。
しかしながら、統計には現れない分野もあります。それは現場の「生の声」です。日本の労働者の中には、これまで理不尽なサービス残業を忍んでいた人たちが大勢います。しかし近年は働き方改革の効果も相まって、着実に過重労働は減少しています。その一方で残業規制によって、「以前より稼げなくなった」と感じる人たちが増えているのも事実です。逆に経営者は経営者で、残業を頼みづらくなったことから、人手不足に拍車がかかる企業も生まれています。こういった現場の状況は、統計からは見えて来ず、一人一人の声に耳を傾けて初めて理解できるものです。ですから「生の声」は大切なのです。
この点で私は10代後半からブラック企業で働き始めて、長時間労働で手取り10万円台の薄給の生活を約10年間も続けました。定時など無縁の職場で耐えた時間があったからこそ、過重労働の理不尽さも十分に理解しています。逆に香港の外資に移ってからは、報酬こそ非常に高いですが、目標に対するプレッシャーは日本の頃とは比較にならないほど強く、文字通り寿命をすり減らすような労働も経験しました。そして今では経営者として、海外で社員を労務管理する立場にあります。このような体験を自らできている事から、「生の声」を聴くという点でも、私は確かに有利な立場にいます。
それで今日は「日本の働き方改革は本当に正しいのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本の雇用環境の変化を俯瞰します。次に海外の統計を通して、先進国・新興国、それぞれの労働の潮流を考えると共に、日本の雇用の特異性を浮き彫りにします。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、今後の日本の雇用について考察を述べると同時に、働き方改革で残業規制が厳しくなる中で、「どうすればビジネスパーソンは稼ぐことができるのか」という点について、具体的な提言を述べたいと思います。将来的に転職を考えている方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ここから先は

ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?