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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第85回 リーマンショックは再来するのか?

 2024年8月5日、日経平均株価の終値は、前週末比で4400円超も下落する大暴落となりました。これは下げ幅としては、過去最大だった1987年のブラックマンデーを上回り、日本の株式市場に不名誉な記録として残ることになりました。
 

 
 興味深い事に、この暴落を「リーマンショックの再来」と指摘する人が少なからずいました。実際Xの株式クラスターの中ではそのような話題で持ちきりでしたし、著名な経済アナリストの中にすら同様の指摘をする人が見られました。ところが翌6日になると株価は急反発し、3217円高を記録します。この日の値上がり率は10%を超えており、今度は過去最大の上げ幅となりました。そしてこの記事を書いている9月初頭時点では、既に株価は38000円台まで回復しており、完全に底を打ったように見られます。
 
 今回のように株式市場で暴落が起きたり、経済不況が訪れる度に引き合いに出されたりするのが、他でもないリーマンショックです。ただ振り返ってみますと、リーマンショックが起きたのは2008年だったので、既に16年が経過しています。私と同世代の40代くらいまではその悲惨さを身をもって経験していますが、今の20代や30代の多くは就職前だったので、それを目の当たりにはしていません。あの時、金融の現場で何が起きていましたか?またそれがどのように実体経済に影響を及ぼしましたか?こういった事実を考察するならば、今回のように株価が下落した際にも、右往左往せずに済むに違いありません。
 
 ではどうすればそれを知ることができますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、リーマンショック時に株価がどのように推移し、雇用統計がどのような影響を受けたのかを知ることができます。またリーマンショックは株価も大暴落しましたが、同時にその影響が株価だけにとどまらず、長期にわたり実体経済へ深刻な影響を及ぼしたという点でも異例です。それでこれらの点を精査すれば、次に株価の下落が生じた際にも、リーマンショックとの類似性と相違性を把握でき、冷静な判断を下すことができるでしょう。
 
 一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計にも目を向ける必要があります。実際リーマンショックの震源地はアメリカでしたが、それが欧州からアジア、そして全世界へと飛び火していきました。さらにその後は多くの国々が経済不況に苦しみましたが、その中でも比較的早く立ち直った国もあれば、逆に延々とその後始末に苦労した国もあります。そう考えると、日本の統計に加えて、海外の統計を調べることも確かに重要と言えます。
 
 ただ統計だけでは見えて来ない分野があります。それは現場の「生の声」です。リーマンショックが起きた2008年、金融機関による貸し渋りや貸し剥がしが頻発し、それが雇用統計にも大きな影響を及ぼしました。中でも最も打撃を受けたのは、他でもない末端の労働者です。この年には多くの派遣労働が打ち切られ、年末の日比谷公園には「年越し派遣村」が生まれました。
 

 
 このようにリーマンショックは金融だけでなく、地球の裏側にある日本の雇用にも多大な影響を及ぼし、無数の労働者の生活を左右しました。確かにリーマンショックについて考える時には、統計に加えて「生の声」に耳を傾けるのは有用です。
 
 この点でリーマンショックが起きた当時、私は横浜の港湾の物流倉庫で勤務していました。当時の日本の製造業は、リーマンショックと、その後に生じた極端な円高で大打撃を受けており、その結果、製造拠点の海外移転が進み、それと並行して日本の物流業も苦境が続きました。その後、2010年からは香港に仕事の場を移しましたが、海運業界は日本だけでなく世界的に傷跡が深く、非常に長い期間にわたって不況に苦しみました。私はこういった現場の最前線を目の当たりにしてきましたので、「生の声」を聞くという点でも、確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「リーマンショックは再来するのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、リーマンショックが株価や雇用にどのような影響を及ぼしたのかを俯瞰します。次に海外の統計を通して、リーマンショックがどのように世界に飛び火し、どれだけ広範囲に影響が及んだのかを俯瞰します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、リーマンショックから学ぶべき点を考察すると共に、投資家は今後それをどのように活かしていくべきなのか、具体的な提言を行います。個人で株式投資や資産運用を行っている方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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