「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第53回 親日国タイの未来は明るいのか?
2023年5月14日、タイで下院総選挙が実施されました。選挙管理委員会の発表によりますと、野党の「前進党」が第一党、「タイ貢献党」が第二党となり、野党両党で過半数に達しました。一方で今回の選挙では軍に近い政党が敗北を喫し、軍主導の政治への不満が鮮明となった形です。そして首相指名選挙は下院議員500名と上院議員250名の合同で行われる予定で、下院でどれだけ野党連合が支持を伸ばせるかが、政権交代に至るか否かの境目となっています。
このようにタイの政治は今まさに転換点を迎えようとしています。ただ軍と政権の揉め事はタイのお家芸にもなっています。例えば1932年の立憲政治以降、タイでは19回もクーデターが起きており、そのうち12回が成功に至っていると言われています。これほどまでに頻繁にクーデターが起きる国は、東南アジアに限らず世界中を見回しても珍しく、これが経済成長の足かせになっている点は否めません。
一方でタイは世界屈指の親日国として知られています。東南アジアで最も訪日観光客が多い国はタイですし、逆に日本人の旅行先で最も多い国もタイです。また進出している企業数も東南アジアでは断トツ1位で、日本とタイの関係の深さは、近隣国のそれを大きく凌駕しています。言い換えるなら、タイの経済成長は日本の経済成長にも影響を与えます。ですからタイの動向に注目する事は、私たち日本人全てにとって有用な事と言えます。
ではどうすればタイという国の実態を知る事ができますか?この点で統計は有用です。タイと日本の統計を調べれば、これまで両国の関係がどのように深まってきたかについて、正確な理解を得る事ができます。それは現在の両国の経済関係に加え、将来の歩むべき道筋についても教えてくれるかもしれません。
しかし日本の統計だけでは不十分です。海外の統計についても調べる必要があります。タイは近年日本に限らず、世界各国から投資を受け入れています。その傾向として中国と韓国の投資額が伸長しており、欧米企業の進出も相次いでいます。仮に日本の投資額が伸長しても、他国の投資額が更に伸びれば、日本のタイにおけるプレゼンスは相対的に失われていきます。ですから海外の統計も重要と言えます。
一方で統計だけでは見えて来ない分野があります。それは現場の「生の声」です。例えばタイは東南アジアでも独特のビジネスの習慣を持つ国として知られています。西暦と併用して仏暦が用いられていますし、印鑑の文化も残っており、日本と親和性があると言えるかもしれません。逆に仕事の進め方に関しては大きく乖離しており、東南アジアの近隣国とも親和性がある部分とない部分が存在します。こういった現場で聞かれる「生の声」は残念ながら統計から見えて来ず、実際に彼らとビジネスを行って初めて理解できるものです。故に生の声に耳を傾ける事は、統計を精査する事と同じかそれ以上に重要と言えます。
この点で私は香港とマレーシアの港湾で会社を経営していますが、タイのレムチャバン港にもクライアントがおり、実際に足を運んでいます。マレーシアとタイは立地的に非常に近く、飛行機で1時間程度の距離なのですが、その企業文化は全くと言って良いほど異なります。特にレムチャバン港はシンガポールやマレーシア・ポートクランと比較してコンテナの取扱数も大きくなく、ハブ港としては殆ど機能していないため、ローカルのルールが色濃く残っています。私はこういった現状や貿易の現場の最前線をこの目で見ているため、タイについて語る上で有利な立場にいます。
それで今日は「親日国タイの未来は明るいのか」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの両国の関係の推移を振り返ります。次に海外の統計を通して、近年のタイがどの国から投資を集め、それがどのように経済成長に繋がってきたかを俯瞰します。最後に私自身の「港湾の最前線から見た視点」を踏まえながら、統計からだけでは見えて来ない実情を考察し、今後のタイ経済の行方や日本との関わり方について私見を述べたいと思います。タイ在住の皆様、更にはタイ旅行が大好きな方にも必見の内容です。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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