「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第69回 年収1000万円は成功者なのか?
2023年12月26日、厚生労働省は厚生年金の引き上げ案を社会保障審議会に提出しました。現行の制度では月収63万5000円で保険料が頭打ちとなっていますが、これを66万5000円に引き上げる予定です。これにより、平たく言えば高所得者の負担が増える見込みです。この対象者は約264万人に上ると予想され、加入者全体の6.3%が該当すると推察されます。
ちなみに月収66万5000円なら、年収で800~900万円に相当し、年収1000万円が射程圏内に入ってくる頃です。ただこの辺りのレンジから所得税の累進課税もきつくなってきて、子育て関連の補助も対象外になります。こう考えると、年収1000万円では大した贅沢もできないというのが実情かもしれません。
それである人はこう考えるかもしれません。「ストレスを抱えて年収1000万円を目指すのであれば、それより低い年収でも十分だ」と。もちろん人の価値観はそれぞれですし、日本の税制などを考えれば、このように結論付けたくなるのも無理もないことです。ただその前に、日本人全体の所得傾向に精通することは大切です。それが理解できれば、自分が一体どの収入レンジを目指すべきなのか、自ずと目標が見えてくるからです。
ではどうすればそれが分かりますか?この点で統計は有用です。日本の統計を調べれば、これまで年収1000万円以上の所得層の人数がどのように推移してきたのか、またそれに伴って税や社会保険料の負担がどのように変化してきたのかを理解できます。それはこれまでの日本経済の歩みと共に、今の日本が抱える構造的な問題を浮き彫りにしてくれるかもしれません。
一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も重要です。例えば日本においては、年収1000万円は「高所得者」の部類に属しますが、一部の先進国においては、年収1000万円は単なる一般庶民に過ぎません。こういった国々では、賃金も伸びていますが、同時に物価も上昇しています。逆に日本は賃金も伸びていませんが、物価の上昇率も大きくありません。こういった点を比較するならば、世界の中で日本が置かれた立ち位置をより正確に理解することができます。それ故に海外の統計も重要と言えます。
ただし統計からは見えて来ないものもあります。それは実際に年収1000万円以上稼ぐ人たちの「生の声」です。上述のように、日本では年収1000万円前後になると、いわゆる「引かれる額」が大きくなるため、豊かさを体感できないかもしれません。一方で日本には年収2000万円、もしくはそれ以上稼ぐ人たちも一定数います。では彼らが何のストレスもない生活を送ることが出来ているかと言うと、必ずしもそうではありません。彼らは彼らで一般庶民では想像できないような悩みや葛藤を抱えているものです。当然ながらこういった点は、統計からだけでは見えて来ず、彼らの話に耳を傾けて初めて理解できます。それ故に「生の声」に耳を傾ける事は大切なのです。
この点で私は香港とマレーシアで会社を経営していますが、両国は日本と比較して非常に格差が大きいことで知られています。例えば香港人の平均年収は日本を下回りますが、ホワイトカラーに限って言えば、日本人よりも平均年収が高い状況です。またマレーシアの格差はさらに大きく、首都クアラルンプールでは日本以上に種々の高級車を目にしますが、その傍らで物乞いの人達も大勢います。私はこういった極端な格差を目の当たりにしてきましたし、私自身も人を採用して給与を支払う雇用主として、社員に対して言わば「格差」を付けています。そのため「生の声」に耳を傾けるという点で、私は確かに有利な立場にいます。
それで今日は「年収1000万円は成功者なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本における年収1000万円以上の所得者の数、およびそれに伴って税制がどのように変化してきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、世界における年収1000万円プレイヤーの立ち位置を確認します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の税制の問題点を指摘すると同時に、どうすれば年収1000万円、さらにそれ以上を目指すことができるのか、ビジネスパーソンの方々に向けて具体的な提言をしたいと思います。将来的に転職を考えている方々には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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