「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第21回 香港経済に未来はあるのか?
2020年6月30日、この日は香港の歴史上、極めて重要な日となりました。この日から香港では、香港国家安全維持法(国安法)が施行される事になったのです。この法が施行される事により、中国大陸側の保安担当者が香港市内で合法的に活動ができるようになりました。この国安法には無数の制限が含まれています。例えば第29条では、中国の中央政府及び香港当局への憎悪を誘発する行為を有罪とみなしています。これにより、香港市民は中国共産党への表立った批難を行う事が難しくなりました。またこの法の下では、裁判が非公開で行われたり、陪審員なしで一方的な判決が下される事も認められています。確かにこの日を境に、香港の自治は終わったといっても過言ではありません。
ただ当初は国安法が施行されても、これはあくまで脅しの為に作られた物に過ぎず、大きな実害には至らないと考えていた識者もいました。しかしその期待は幻に終わります。中国政府及び香港当局はこの法をかなり厳格に適用し、次々と一般市民を逮捕しました。実際2022年1月末までに、何と162人もの市民が逮捕されたと発表されています。確かに香港は以前の様な自由闊達な雰囲気を失ってしまいました。
ではこの先、香港経済の未来は明るいのでしょうか?また日本は香港とどのような距離感で付き合えば良いのでしょうか?この点で統計を調べる事は有用です。統計は雄弁です。統計を調べれば、日本と香港、両国の関係のこれまでの推移を知る事ができます。とりわけ国安法が施行される前と後で、どの様な変化が生じたのかに関しても洞察を得る事ができるでしょう。特に香港に関する報道に関しては、中国寄り、もしくは香港寄り、どちらかのバイアスがかかっている事も少なくない為、統計から正しい理解を得る事はとても重要な事と言えます。
一方で日本と香港の間の統計だけを調べても意味がありません。世界の統計に注目する必要があります。実際香港は長年にわたり、「アジアの窓口」の役割を果たしてきました。日本と香港の間の統計を調べると同時に、世界と香港の間の統計を調べれば、現在の世界における香港の正しい立ち位置を理解する事ができます。
ただし統計だけでは見えて来ない分野があります。それは「実際のビジネスの現場」です。例えば香港は国安法が制定されて以降、それなりの数の外資系企業が撤退したり、アジアのヘッドクォーターがシンガポールへ移管されたりしたと言われています。その一方で中国資本の投資は右肩上がりになっており、それが香港経済を支えるものともなっています。この点で欧米系企業と中国系企業ではビジネスの習慣も大きく異なるため、この「実際のビジネスの現場で何が起きているか」という点に関しては、そこでビジネスを展開している人にしか理解できないでしょう。
この点で私は香港に滞在歴があります。また国安法の制定前から香港では会社を経営しており、この法がどのように香港のビジネスの習慣に影響を与えたのかについても理解しています。更に弊社は港湾の会社ですが、香港は今も世界屈指のハブ港の一つです。しかしそこを利用する船舶の内訳にも、国安法が制定されて以後、着実に変化が生じ始めています。私はこういった「実際のビジネスの現場」を体験しているという点で、香港経済について語る上で有利な立場にいます。
それで今日は「香港経済に未来はあるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に統計を精査する事で、現在の香港経済に関する正しい理解を得ていきます。加えて私が実際に香港で会社を経営する中で体感している出来事を通して、国安法がどのようにビジネスの現場に影響を与えてきたかも考察します。更に21世紀の香港の将来像に関しても、予測を立てていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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