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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第3話 ポートクラン・ゴルフリゾート(Port Klang Golf Resort)での対峙

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/n6a1943310e0e
 
長い一日を終えた氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、ポートクランの市街地にあるヒンズー教寺院の前に立っていた。

ヒンズー教寺院

ここで氷堂は、会社の現場責任者であるケヴィンと待ち合わせをしていたからだ。待ち合わせの時間は19時だったが、その時間を過ぎても、中では礼拝が続けられている様だった。そんな事を考えていると、寺院の門が開き、中から大勢の人たちが出てきた。そしてその中にケヴィンがいた。

「リツ、待たせて悪かったね。ちょっと礼拝が長引いてしまって。そうだ、今日はうちの奥さんと子供たちも同席して良いかな。」

そして彼の傍らにはケヴィンの妻、10代の年頃の女の子、更に小学校低学年と思われる女の子の3人がいた。ケヴィンの妻はきらびやかな民族衣装を身にまとっており、彼女は二人の子供たちと談笑していた。ただ彼女たちは英語ではなく、彼女たちの母語であるタミル語で話していた為、何を話しているのかはリツには理解できなかった。それでも和気あいあいとした雰囲気をケヴィンの家族からは感じ取る事ができた。そしてリツは答える。

「勿論いいよ。大歓迎だよ。というより今ここで断って、奥さんやお子さんたちに家に帰って貰う訳にもいかないだろう?」

リツはそう答えた後、ケヴィンの家族に対して簡単に自己紹介をした。ケヴィンとは一緒に働き始めて3年以上が経過するが、家族と会うのは今回が初めてだった。そして次にケヴィンの妻が自己紹介をしたが、彼女の英語はかなりタミル語訛りが強く、聞き取るのに苦労した。その後にはケヴィンの子供たちも自己紹介をしたが、彼女たちの英語は殆ど訛りがなく、とても流暢だった。聞いてみると彼女たちはインターナショナルスクールに通っている様で、学校での授業や会話は全て英語で行われているらしい。どおりで英語が上手な訳だ。

そしてそれぞれの車に乗って、目的地であるインド料理店に向かった。マレーシアにはマレー系、中華系、インド系の住民がおり、各々の郷土料理店が街中に溢れている。その中でもインド料理店は、マレーシアのインド系住民に加え、バングラデシュやパキスタンからの出稼ぎ労働者にとっても故郷の味わいに近いらしく、夕方になると一日の肉体労働を終えた人達で店内はごった返していた。そして全員が席に着くと、氷堂はケヴィンに尋ねた。

「このお店では何がお勧めなのかな?僕は何でも食べる事ができるけど、メニューが良く分からないから任せるよ。」

それに対してケヴィンは答える。

「そりゃ勿論マトンだよ。リツ、マトンが大好きだったよね。」

日本ではマトンというと羊の肉の事を意味するが、東南アジアでは羊ではなく山羊の肉の事を意味する。味わいにはかなり癖があるものの、肉質は柔らかく、何よりインド料理で用いられるスパイスとの相性は完璧だ。氷堂はケヴィンのお勧め通りマトンカレーを注文すると、ケヴィンの家族たちと他愛もない話題で談笑した。その時、氷堂のスマホにSMSが届いた。ケヴィンの家族との会話が盛り上がっていたので、テーブルの下で内容だけ素早く確認すると、差出人はマレーシア国内に支社がある韓国系のフォワーダーの責任者であるキムだった。そしてそこには次のメッセージが残されていた。

「昨日のコンテナでトラブルが発生している。北朝鮮からの荷物が混入していた模様。明日朝一番で連絡が欲しい。あなたの助けが必要だ」

「北朝鮮」という予想外のワードを目にした氷堂は少し慌てたが、ケヴィンの家族との会食に水を差しても申し訳ないので、平静を装い、スマートフォンをすぐにポケットに入れて会話を続けた。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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