「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第65回 日本で資産運用特区は成功するのか?
2023年9月、岸田首相はニューヨークの経済クラブ主催の講演で「資産運用特区」なるアイディアを披露しました。首相は講演の中で「資産運用特区によって、海外からの投資銀行の参入を促進する」と述べており、その施策として、英語のみで行政手続きが完了できるようにしたり、ファンドマネージャーおよびその家族の住環境や教育環境の整備をしたりすることを約束しています。そして現在特区の候補地としては、東京・大阪・福岡・札幌の4都市が有力視されており、今後の展開が期待されます。
確かに世界の投資環境を俯瞰して見ると、日本は他の先進国と比較して、家計資産のうち現預金の比率が非常に高くなっています。この現預金を投資に回していく上で外資の力は有用であるため、誘致の方向性自体は間違っていないと考えられます。ただ一方で、今のように足元で円安が進む中で特区の運用を推進すれば、日本の企業や不動産が外資の草刈り場になってしまうのではないか、と懸念する声もあります。それで資産運用特区が持つリスクとベネフィットについては、バランスの取れた見方が必要と言えます。
ではどうすればそれが分かりますか?この点で統計は有用です。日本の統計を調べれば、今まで株や債券などの投資額がどのように推移してきたのか、一方で現預金はどれほど積み上がってきたのかを理解できます。それは日本経済の過去の歩みを明らかにすると共に、現在の日本が抱える構造的な問題点も明らかにしてくれるかもしれません。
一方で日本の統計だけでは余り意味がありません。海外の統計も重要です。21世紀に入り、世界はグローバル化がさらに進んでいます。これは資産運用に関しても同様で、現在では個人の資産ですらも国を跨いで移転されるようになっています。この点で、どれだけ日本が外資を呼び込もうと努力しても、税制が他国よりも大きく見劣りするのであれば、誘致は上手く進まないでしょう。それ故に海外の統計も重要と言えます。
ただ統計からは見えて来ないものもあります。それは人々の「生の声」です。世界には金融立国と呼ばれる、金融業が国の主たる産業になっている国々が存在します。そういった国には海外から多くの投資が集まり、それによりGDPも伸長します。一方で国民全員がそういったものの恩恵にあずかれる訳ではなく、日本以上の格差が見られる国も少なくありません。そしてそこで暮らす人たちの辛苦は、当然ながら統計からは読み取ることが難しく、ローカルの声に耳を傾けて初めて理解できるものです。それ故に「生の声」も重要なのです。
この点で私の前職は、香港のコンテナリース会社において金融商品の設計に携わってきました。オペレーティングリースは節税対策にも効果があるため、資産運用の一部として用いられています。加えて現在私はマレーシアで会社を経営していますが、この国はキャピタルゲインや配当・利息、さらには相続税や贈与税なども無税であり、資産運用時の税制メリットが非常に大きい環境と言えます。ただ一方で香港もマレーシアも日本以上に大きな格差社会であり、その現実も目の当たりにもしてきました。そのため人々の「生の声を聞く」という点において、私は確かに有利な立場にいます。
それで今日は「日本で資産運用特区は成功するのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本における資産運用額や現預金がどのように推移してきたのかを俯瞰します。次に海外の統計を通して、金融立国を謳う諸外国の実態に迫ります。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の問題点を指摘すると同時に、今後の方向性に関して提言を述べたいと思います。個人で資産運用をされている方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ここから先は
ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?