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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第37話 南太平洋の島々の悲哀

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/n6a8cd3b64490
 
 この話は2019年まで遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、朝出勤すると携帯電話の着信音が鳴った。「こんな早くから誰だろう」と思い電話の通知を見ると、そこには「フェータイル社・アレックス」と書かれていた。フェータイル社は香港にある氷堂の会社の親会社であり、アレックスはその会社のCOOだ。
 
 電話に出た氷堂に対し、アレックスは開口一番こう言った。
 
「リツさん、ご無沙汰しています。お元気ですか?朝早くからすいませんね。少しお願いしたい案件がありましてね、ご連絡させて頂きました。」
 
 アレックスから電話がある時というのは、大抵無理なお願いをされる時だ。氷堂は嫌な予感がしたが、そんな心配を他所にアレックスは話を続けた。
 
「少しお聞きしたいんですが、ソロモン諸島ってご存知ですか?実はそこから東南アジア向けにカカオ豆の輸出の案件が入っています。今回はそれをアレンジしている物流会社からの連絡で、急遽コンテナを手配しなければならなくなったんです。」
 
 氷堂は「ソロモン諸島」という予想もしない単語が出てきて少し驚いた。それで携帯電話を左手に持ち替え、右手で目の前にあるノートパソコンでソロモン諸島について少し調べてみた。どうやら南太平洋にある小国で、地理的にはオーストラリアから東に2000km程度の場所に位置しているらしい。
 

 
 アレックスは話を続ける。
 
「実はですね、長い間ソロモン諸島は台湾と国交を結んでいたんです。しかし先月ソロモン諸島政府は台湾と断交し、中国と国交を結ぶと発表しました。ちなみに今回のカカオの案件も元々は欧米系の船社に載せる事になっていたんですが、台湾との断交および中国との国交樹立によって、その船社がソロモン諸島への便を止めてしまったんです。そこで急遽中国系の船社に載せる事になり、コンテナが必要になったという次第です。ご理解頂けましたか?」
 
 アレックスは淡々と要件を話した。氷堂も答える。
 
「アレックスさん、分かりました。中国と台湾の国交問題ですか…少しきな臭いですね。それはフェータイル社の方で扱う事は出来ないのでしょうか?」
 
 聞いただけで面倒くさそうな案件だったため、氷堂は可能ならこの仕事を断りたかった。しかしアレックスは無情にもこう言った。
 
「リツさん、貴方も良くご存じの通り、弊社はコンテナリースの大手です。大口の船社しか相手にしません。こんなソロモン諸島のような小口の仕事をしても全く儲からないんですよ。大手が扱えない仕事を喜んでやるのが、貴方の会社に与えられた使命なのではありませんか?」
 
 親会社のCOOを前に、氷堂は閉口してしまった。確かにその通りだ。資本主義で一番偉いのは常に株主であり、フェータイル社が氷堂の会社の大株主である以上、逆らう事はできない。それで氷堂は言った。
 
「分かりました。では私の方で先方と連絡を取って進めさせて頂きます。」
 
 するとアレックスも言った。
 
「そうお答え頂けると思っていました。では詳細は後ほどメールします。ソロモン諸島の海はまるで楽園の様に美しいそうですよ。少し休暇でも取ってゆっくりしてきてはいかがですか?それでは宜しくお願いします。」
 
 そう言うとアレックスは一方的に電話を切った。氷堂は「面倒くさい案件だな…」とも感じたが、アレックスの言う通り、休暇も兼ねてなら悪い話ではないとも思えてきた。それでこの仕事を受ける事にした。しかし後に氷堂が南太平洋の楽園で目にしたのは、中国に依存せざるを得ない、国民の極めて厳しい経済状況だった。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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