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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第61回 日本の外国人労働者はどこまで増えるのか?

 2023年4月、政府の有識者会議は技能実習制度の廃止を提言しました。代わりに外国人を純粋な労働者として中長期的に滞在させる、新制度へのたたき台を示しました。この制度が導入されれば、これまで原則認められてこなかった「転籍」も容認されるようになり、外国人労働者にも職を選ぶ機会が与えられることになります。加えて実習生がより就労に有利な「特定技能」のビザへの円滑な移行も支援することで、企業の人材確保を推進したいと考えています
 
 確かに技能実習制度の創設から30年間が経過し、様々な問題が表面化しています。例えば職場での暴力やパワハラなどは後を絶たず、実習生の失踪に至っては年間7000人を超える始末です。このような状況に対して、国際機関からも「人権侵害だ」という批判が上がっています。そう考えると程度の差こそあれ、日本の外国人政策が大きな過渡期に入っている事に異論の余地はないでしょう。
 
 ただ「外国人労働者をどこまで受け入れるのか」という点に関しては、社会全体でコンセンサスが取れていないのもまた事実です。現在の日本は少子高齢化により、労働人口が縮小しています。その中で外国人労働者を積極的に受け入れて経済規模を維持するのか、それとも外国人はできる限り排除して経済成長は諦めるのか、こういった点に関してはいわゆる保守やリベラルの間ですら意見をまとめ切れていません。そして議論が煮詰まらないまま、なし崩し的に人数が増えているようにも観察されます。
 
 ではどうすれば日本の外国人政策について、その実態を知ることができますか?この点で統計は有用です。日本の統計を調べれば、これまでの外国人労働者人口の推移を知ることができます。それはどの時点から右肩上がりになってきたのでしょうか?またどの国からの労働者が多いですか?こういった点に関する答えを統計は教えてくれます。それはこれまでの日本の歩みを明らかにすると共に、今の日本が抱える構造的な問題点も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 しかし日本の統計だけではなく、海外の統計を調べることも大切です。現在は世界中で熾烈な外国人労働者の争奪戦が繰り広げられています。外国人労働者は母国への仕送りを目的として海外へ働きに出掛けているため、当然ながら賃金の高い国へ向かう傾向があります。その中で賃金の停滞する日本は苦戦を強いられており、以前ほど容易に人を集められなくなってきているのもまた事実です。こういった国際情勢に関しては、日本の統計からだけでは見えて来ず、海外の統計を調べて初めて知ることができます。ですから海外の統計を調べることも有用と言えます。
 
 ただ統計では見えて来ない分野もあります。それは外国人労働者の「生の声」です。外国人労働者が母国を離れて新しい言語を習得し、さらに慣れない環境にも順応していくのは容易な事ではありません。その中で彼らは多くのストレスや辛苦、一方で喜びも経験するに違いありません。こういった外国人労働者の抱える感情というものは、当然ながら統計には表れず、彼らの話に耳を傾けて、初めて理解できるものです。それゆえに「生の声」に耳を傾けることは大切です。
 
 この点で私自身も十数年前に日本を離れて香港に渡り、言わば外国人労働者として働き始めました。また現在はマレーシアで会社を経営していますが、弊社ではバングラデシュやパキスタンからの労働者も雇用しています。加えてマレーシアは極端な外国人政策を採用する国としても知られており、既に人口の約1割が外国人です。ただこれはあくまで「正規に登録された外国人」の数で、それに加えて不法移民がさらに人口の1~2割もいると言われており、政府も完全に集計不能に陥っています。私はこういった惨状を目の当たりにしていますので、「生の声」を聞くという点でも確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本の外国人労働者はどこまで増えるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本の外国人政策を振り返ります。次に海外の統計を通して、世界の外国人労働者の潮流を俯瞰します。最後に私自身の海外における会社経験も踏まえながら、今後の日本における外国人政策の方向性に関して、考察と提言を述べたいと思います。職場や近隣に外国人の方がいる人には、特にお読み頂きたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
  

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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