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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第96回 日本最大の労働組合組織「連合」の功罪とは?

 2025年1月30日、連合の芳野会長は高知市内で記者会見を開き、今年の春闘においても引き続きの賃上げを実現する決意を語りました。この会見の中で芳野会長は、2024年は賃上げ率が33年振りに5%を超えたものの、大手企業と中小企業の間で賃金差が広がっていることに言及し、今年の春闘においては賃上げの格差是正に取り組む必要性を訴えました。
 

 
 確かに連合は日本最大の労働組合組織で、組合員の数は約700万人に及び、政治力においても他の労働組合組織とは明らかに一線を画します。とはいえ連合が結成されたのは1989年であり、連合の30年の歴史は、日本の賃金が停滞した30年の歴史と重なります。それで「本当に連合が労働組合として適切な役割を果たしてきたのか」という点について、きちんと検証することは有用です。賃金停滞の要因は、政治だけでなく、間違いなく労働組合にもあるからです。
 
 ではどうすればそれを理解できますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、連合の加盟組織数や組合員数がどのように推移してきたのかについて、正しい理解を得ることができます。それは連合のこれまでの歩みと同時に、現在の彼らが抱える構造的な問題も明らかにしてくれるかもしれません。ですから統計は大切です。
 
 一方で日本の統計だけでなく、海外の統計にも着目する必要があります。この30年間、日本の賃金はずっと停滞してきましたが、その間にも海外の賃金は着実に上昇してきました。その結果、日本と他の先進国との賃金差は開き、逆に新興国との差は縮まっています。そしてどの国においても、賃上げには労働組合が深く関与しています。ですから海外の統計を調べれば、連合の特異性をさらに明確に理解できるはずです。それゆえに海外の統計も重要です。
 
 しかしながら、統計では見えて来ない分野も存在します。それは労働組合に関わる人たちの「生の声」です。労働組合の組合員の中には、毎月天引きされる組合費が無意味だと感じる人も少なくないでしょう。賃上げは見られないのに、組合費だけはキッチリと徴収され、それが組合幹部の飲み食いに消えてしまうことすらあります。一方で組合側にも彼らなりの辛苦があります。日本の中には、社員を管理職に出世させる前に、労働組合の役員を経験させる企業も少なくありません。こうすることで、組合は会社に取り込まれた「御用組合」と化し、組合側も企業に強く出られない状況が観察されます。こういった労働組合に関わる人たちの悲喜こもごもは、統計からは見えて来ず、一人一人の声に耳を傾けて初めて理解できるものです。だからこそ「生の声」も必要です。
 
 この点で私は海外の港湾でキャリアを積んできましたが、ご承知の通り、港湾という場所はどの国でも労働組合の力がかなり強いことで知られています。労使交渉が不調に終わり、ストライキに至る事も珍しくありません。私は香港で働いていた頃には、組合員として組合活動に参加してきましたし、逆に今はマレーシアで会社を経営する中で、経営者として組合と対峙する立場にいます。それでこの労働組合の問題を語る上で、私は確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は『日本最大の労働組合組織「連合」の功罪とは?』というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、連合の成り立ちや組合員数の変化などを俯瞰します。次に海外の統計と比較することで、連合という組織の異質さを浮き彫りにします。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、連合の問題点を指摘すると同時に、日本の労使関係の未来について提言を行います。ご自身の給料が上がらずに悩んでいる方や、将来的に転職を考えている方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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