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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第95回 日本人が海外へ出稼ぎに行く時代は来るのか?

 日本でも「海外出稼ぎ」という言葉を、数年前から耳にするようになりました。この言葉に厳密な定義はないものの、一般的には若くて元気なうちに海外へ出かけて仕事をして、日本にいるよりも高い賃金でお金を稼ぐことを意味します。実際オーストラリアを筆頭に、ワーキングホリデービザを用いて渡航して、現地で仕事をしながら貯金をする日本人の数は増えています。彼らは短期間でお金を稼いで、それを元手に帰国後に起業したり、その後も当該国に残って仕事を続けたりすることを目指しています。
 
 このように日本のメディアでは海外出稼ぎの明るい側面に焦点が当てられますが、当然ながら報道されない負の側面も存在します。例えば渡航したものの思うように仕事が見つからず、賃金だけでなく物価も高いことから、期待したほどお金を貯められない人や、早期に帰国を決断するケースも散見されます。これもまた現実です。
 
 確かに海外出稼ぎには功罪の両面が存在します。しかしながら、全体を俯瞰すれば、日本は約30年にわたり物価も賃金もほとんど上昇しない状態が続いてきました。一方でその間にも海外では、物価も賃金も着実に上がってきました。その結果、他の先進国との賃金差は開き、逆に新興国との賃金差は縮まっています。日本人が海外へ出稼ぎに行くなど、バブル期の物価が高かった頃では考えられなかったかもしれませんが、この30年間の日本経済の歩みを考えれば、こういった流れも自然なものと言えるかもしれません。
 
 では今後も日本人の海外出稼ぎは増えていきますか?また個人として、海外出稼ぎは現実的な就労手段ですか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、これまで海外在留邦人の数がどのように推移してきたのか、またどの国に分布していているのか、さらにどんな目的で滞在しているのかについて、正しい理解を得ることができます。それは過去の日本経済の歩みを教えてくれると共に、現在の日本が抱える構造的な問題も明らかにしてくれるかもしれません。それ故に統計は大切です。
 
 一方で日本の統計だけでは不十分です。海外の統計にも注目する必要があります。現在は世界中の国々で人手不足が顕在化しており、優良な外国人労働者の激しい争奪戦が繰り広げられています。つまり日本人が海外へ出稼ぎに行く際には、こういった他の国の外国人労働者とも競合関係になる訳で、企業側にも日本人を雇用するベネフィットが必要となります。こういった点に関しては、日本の統計に加えて、海外の統計も調べなければ深く知ることはできません。ですから海外の統計も重要です。
 
 一方で統計からは見えてこない現実も存在します。それは当事者たちの「生の声」です。日本から海外へ出稼ぎに行った人の中には、キャリアの形成に成功した人もいれば、そうでない人もいます。また受け入れる企業の側も、日本人を雇用したことで新たなビジネスの機会が開かれた企業もあれば、ネガティブな要素だけが残ってしまった企業もあります。このように雇用者および被雇用者の悲喜こもごもは、統計からは見えて来ず、実際の話に耳を傾けて初めて理解できるものです。だからこそ「生の声」は必要と言えます。
 
 この点で私自身も20代までは横浜の港湾で働いていましたが、30歳で香港に渡り、そこから海外でのキャリアをスタートさせました。言わば海外出稼ぎの一員と言えます。さらに40代の今は、マレーシアで外国人として会社を経営していますし、逆に南アジアからの外国人労働者を受け入れる立場でもあります。そのため、この「海外出稼ぎ」という問題を考える上で、私は確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本人が海外へ出稼ぎに行く時代は来るのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本人の海外在留邦人の推移や目的について俯瞰します。次に海外の統計を通して、世界の移民の潮流を考察します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、今後は海外へ出稼ぎに行く日本人が増えるのかについて、その予測を立てたいと思います。特に海外への就職を検討している方や、お子さまの将来の進路を海外も含めて考えている方には、是非お読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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