「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第58回 日本の相続税は適正なのか?
2023年度の税制改正で、生前贈与に関するルールが65年ぶりに見直されることとなりました。この中には暦年贈与のルールが厳しくなることや、相続時の精算課税制度への優遇措置などが含まれています。この贈与税の改正は相続税との整合を取るために行われるものですが、そもそも相続税というものは、富の固定化を防ぐ目的で制定されたと言われています。確かに相続税は金持ちから金持ちへと何代にもわたり富が受け継がれるのを防ぐ効果があるため、これにより世代を超えた格差は是正されてきました。
一方で日本の相続税は「懲罰的に厳しい」とも評されています。例えば米国では日本円にして10~20億円の基礎控除があり、ごく一部の富裕層を除いて、ほとんどの一般人には相続税が課されません。さらにシンガポールやマレーシアといった国々では、相続税自体が制定されていません。そして現在はグローバル化が進み、富裕層の節税対策は国境を越える形で実現されています。そのため日本の相続税率の高さは、「日本の富裕層が海外へ逃げてしまう」という問題と同時に、「海外から富裕層が移住してこない」という現実も引き起こしています。
ではどうすれば相続税に関して、それが適正かどうかを理解できますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、日本の相続税率がどのように推移してきたか、さらにそれが税収や格差縮小にどのように寄与してきたかを理解できます。それはこれまでの税制の歩みを知るとともに、現在の日本経済が抱える問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
一方で日本の統計だけを見ても、余り意味がありません。海外の統計にも注目する必要があります。先述した通り、現在はお金の動きのグローバル化が進んでいます。税制も同様で、日本国内の事情だけで決定している訳ではなく、海外の経済動向も日本の税制に大きな影響を及ぼしています。ですから海外の統計に注目することも重要と言えます。
ただ統計だけでは見えて来ない分野があります。それは当事者たちの「生の声」です。多くの一般庶民にとっては、相続税は無縁の話かもしれません。しかし相続税を納めなければならない人にとっては、それは極めて大きな問題であり、その人の生き方全体に大きな影響を及ぼします。そして彼らの喜びや苦悩といったものは、当然のことながら統計には現れないものです。ですから「生の声」に耳を傾けることも重要なのです。
この点で私は日本を離れて10年以上になります。当然ながら私自身は節税を目的として日本を離れた訳ではありませんが、マレーシアでは相続税が無税のため、節税目的で移住してきた人も少なからずいます。一方で現在の日本の税制では、相続人と被相続人が共に非居住者になって10年経過しないと、相続税の課税対象になってしまいます。この10年というハードルは相当高く、節税目的で移住したにもかかわらず、残念ながら海外の生活に慣れずに途中で帰国した人も少なからずいます。私はこういった人たちを実際に目の当たりにしてきましたので、「生の声」を聞くという点で、確かに有利な立場にいます。
それで今日は「日本の相続税は適正なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、これまでの日本における相続税の歴史や推移を調べます。次に海外の統計を通して、日本の相続税の特異性を浮き彫りにします。さらに私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、日本の相続税の問題点を考察すると共に、将来的な方向性についても提言を述べたいと思います。特に個人で資産運用を行っている方には、是非お読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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