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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第38回 日本から世界に羽ばたくスタートアップは産まれるのか?

 日本政府は10月14日、新しい資本主義実現会議の下に「スタートアップ育成分科会」を設置し、首相官邸で初会合を開きました。この会議の冒頭で岸田首相は、「スタートアップの育成は日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決するカギになる」と述べました。今後この分科会の下に日本のスタートアップ支援策が話し合われ、年末までには5か年計画を発表し、それに基いた政策が遂行されていく予定です。
 
 このように現在日本政府は積極的なスタートアップ支援を表明しています。確かにこれまでの30年間、日本経済は低迷を続けてきました。もしここで優良なスタートアップが産まれれば、それが経済の上昇気流への起爆剤になるかもしれません。そう考えると政府がスタートアップに力を入れるのも頷けます。
 
 しかしその反面、日本から世界に通用するスタートアップが、これまで余り出てきていないのもまた事実です。例えば調査会社のCBインサイツによると、ユニコーン(企業価値が10億ドル・日本円換算で約1300億円のベンチャー)は、世界で遂に1000社を突破しました。ただその内訳を見てみると、米国企業が488社、中国企業が170社とこの2か国で約2/3が占められている一方で、日本は6社にとどまっており、米国・中国に大きく引き離されている状況です。
 
 ではどうして優良なスタートアップがなかなか産まれないのでしょうか?これを知る上で統計は有用です。統計を調べれば日本の起業率やその規模について、正確な理解を得る事ができます。それはこれまでの日本経済の歩みを明らかにするとともに、今後の課題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけを見ても余り意味がありません。世界の統計に注目する必要があります。特に近年は米国・中国だけでなく、東南アジアからも有望なスタートアップが続々と産まれています。これらの企業は日本のスタートアップにとっては競合相手であると同時に、協業相手でもあります。加えてこれらの東南アジアのスタートアップは、日本の金融機関にとっても有望な投資先の一つになっています。故に世界の統計に注目する事は重要です。それらを精査する時、今の日本の正確な立ち位置を理解する事が出来るかもしれません。
 
 ただ統計だけでは見えて来ない分野があります。それは「現場で働く人々の声」です。この点スタートアップで働く人たちが異口同音に口にするのは、「うちの会社は大手と比較して就業環境が整っていない」という不満です。これは確かにその通りでしょう。特に上場がまだ視野に入っていない段階のスタートアップにおいては、大手と比較して就業時間も長時間になる傾向があります。この状況に耐えきれず、退職を選ぶ社員も多いのも実情です。一方でそれは日本に限った話ではなく、中国や東南アジアのスタートアップでも同様の傾向は見られます。こういった現場で働く人々の声というものは、残念ながら統計からは余り見えてきません。ですからスタートアップの実態を知る上で、現場の声に耳を傾ける事は重要なのです。
 
 この点で私は海外でコンテナリース会社を経営していますが、その取引先には中国や東南アジアの企業が多く、その中にはスタートアップもかなりの数含まれます。米国のユニコーンはテック系にその業種が集中していますが、一方の中国や東南アジアのユニコーンは製造業もかなりの数が含まれています。この点で日本のスタートアップの在り方を考える時、日本は元々製造業を得意としてきた訳ですから、米国の様な「テック型」を目指すより、中国・東南アジアの様な「製造業型」の方を目指した方が良いと私は感じています。私はこういったアジアのスタートアップの現場を正にこの目で見てきましたので、スタートアップという議題について語る上で有利な立場に居ます。
 
 それで今日は「日本から世界に羽ばたくスタートアップは産まれるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本の起業数やその規模がどのように推移してきたのかを振り返ります。次に世界の統計を通して、日本のスタートアップの課題を洞察していきます。最後に私自身の海外における会社経営の経験を踏まえながら、日本政府は、また個人投資家は、どのようにスタートアップを支援していくことができるかについて私見を述べたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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