「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第49回 日本の人材派遣のどこが異質なのか?
2023年2月、人材派遣会社のパソナによる水増し請求が発覚しました。パソナは新型コロナウイルスの電話受付業務を3つの自治体から請け負っていましたが、電話対応のオペレーターの人数を水増しし、過大請求を行っていたとの事です。これはパソナが再委託した会社の不正が原因のようですが、その総額は10億円を超えており、大きな非難の対象となっています。
これはあくまで一例ですが、これまでにも人材派遣業界を舞台にした事件は幾つもあり、不正の温床になっているという指摘がなされてきました。またそうでなくとも人材派遣は、「何もしなくても胴元が儲かる業界」と思われている節があり、日本経済の負の側面の象徴として語られる事が多々あります。一方で派遣業界がこれまでの日本経済を支えてきた事もまた事実です。既に多くの業界が派遣無しには成り立たなくなっており、現に官公庁ですら派遣に頼っている現状です。このような状況を鑑みるならば、一概に「派遣=悪」とも言い切れないでしょう。
ではどうすれば日本の人材派遣に関して本当の姿を理解できますか?この点で統計は重要です。統計を調べれば、日本の派遣業界の規模や人数がこれまでどのように推移してきたのか、正確な理解を得る事ができます。それは今の日本の実態を明らかにすると共に、今後の進むべき方向性も明らかにしてくれるかもしれません
一方で日本の統計だけでなく、海外の統計にも注目する必要もあります。なぜなら人材派遣は日本独自の習慣という訳ではなく、海外にも同様の仕組みは存在するからです。更に21世紀に入ってからは人材のグローバル化も進んでおり、一つの国の雇用政策が他の国の雇用政策にも影響を与えるようになっています。それで人材派遣に関する海外の統計にも注目するならば、世界のトレンドを知る事が出来ると共に、日本の派遣業界の特異性や異質性も理解する事が出来るでしょう。
しかし統計だけでは見えて来ない分野があります。それは実際に派遣の現場で働く人々の声です。あくまで一般論ですが、派遣で働く人たちの年収は一定ラインから伸びないと言われています。また基本的に同じ事業所の同じ部署で働けるのは最大で3年となるため、年齢を重ねるごとに新たな職場を見つけるのが難しくなっていきます。こういった現場で働いている人々の実際の声というものは、なかなか統計からは見えて来ないものです。ですから現場の声に耳を傾ける事は重要です。
この点で私は海外の港湾で会社を経営していますが、ここにも大勢の派遣労働者がいます。例えばマレーシアのポートクランの港湾には約18000人もの就業者がいるのですが、その9割以上はバングラデシュやパキスタンからの出稼ぎ労働者が占めており、彼らの中には個々の企業に属さずに派遣会社から派遣されてくる労働者が一定数います。というのが港というものは、毎週決まった時間に決まった本数の船が寄港する訳ではありません。時期や季節によって大きなバッファが生じるため、それを効率よく捌くには派遣労働者が欠かせないのです。それで私はこういった海外の現場の最前線を目の当たりにしているという点で、派遣の問題について語る上で有利な立場にいます。
それで今日は「日本の人材派遣はどこが異質なのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本の派遣の歴史と推移を振り返ります。次に世界の統計を通して、海外の派遣業界の実態を理解すると共に、日本の派遣業界の特異性を考察します。最後に私自身の海外における会社経営の経験を踏まえながら、日本の派遣業界の問題点と改善点を考察していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
ここから先は
ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?