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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第84回 コロナ禍が明けた今、航空業界はどこまで成長を続けるのか?

 2024年6月3日、国際航空運送協会(IATA)は世界全体の航空業界の業績予想を大幅に上方修正しました。これによりますと、2024年度の世界の航空収入は1兆米ドルの大台に乗る見通しで、2019年のコロナ前の水準を超えるのは確実と見られています。
 
 確かに振り返ってみれば、新型コロナウイルスによるパンデミックはあらゆる業界に影響を与えましたが、その中でも最も壊滅的な影響を受けたのは航空業界でした。世界中の国々が水際対策を強化し、国際線は瀕死の状態に陥り、2020年度に至っては航空業界全体で1400億米ドルの赤字を計上しました。しかし2024年に入って、ついに完全復活を遂げた形です。
 
 これは日本でも同様です。コロナにより国際線が止まり、さらに感染拡大防止の行動制限により国内旅行も難しくなる中で、JALもANAも巨額の赤字を抱えました。しかしコロナが5類感染症に移行し、インバウンドも堅調な伸びを見せ、両社ともに2019年の水準まで売上を回復する勢いを見せています。これは本当に喜ばしい事です。
 
 では今後、航空業界はどこまで成長するのでしょうか?この点で統計は有用です。例えば日本の統計を調べれば、コロナ禍でJALやANA、加えてLCC各社の業績がどこまで落ち込んだか、そしてコロナ禍を乗り越えた今、それがどこまで回復しているかを確認できます。このような統計を調べることにより、私たちは日本の航空業界の強みや脆弱性をより深く理解できるでしょう。
 
 一方で海外の統計にも目を向ける必要があります。パンデミックの影響は全世界に及びましたが、その後、いち早くコロナ禍を抜け出した国もあれば、そうでない国もありました。また現在でも航空需要が完全に戻っている国もあれば、未だに苦しんでいる国もあります。こういった統計を調べれば、世界における日本の航空業界の立ち位置について、より正確な理解を得ることができます。それ故に海外の統計も重要です。
 
 一方で統計からは見えない情報もあります。それは航空業界に携わる当事者たちの「生の声」です。例えば日本の航空各社は、雇用調整助成金などの様々な補助金を用いて、社員の雇用を最大限守ろうと努めました。逆に多くの外資系航空会社は、CAを含む社員に対してレイオフが発動されました。この良し悪しはさておき、航空需要が急回復した2023年前半などは、人員不足で飛行機を飛ばせない航空会社も続出しました。このような市場環境の中で、辞めた人、残った人、そして戻ってきた人などの悲喜こもごもは、当然ながら統計からは見えて来ず、彼らの話に耳を傾けて初めて理解できるものです。ですから「生の声」も大切です。
 
 この点で私はマレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営しています。2020年から2022年にかけて、 世界の海運はコンテナ不足に陥り、その結果、海運から航空輸送に切り替える荷主が多く見られました。しかしながら、海運と空運ではコストが大きく異なるため、こういった潮流は一部の高額な製品に限られました。ではコロナ禍が明けた今、海運・空運の動きはどうなっているのでしょうか?私はこのような海上輸送・航空輸送の最前線を目の当たりにしていますので、「生の声」を聞くという点でも、確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「コロナ禍が明けた今、航空業界はどこまで成長を続けるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して。日本の航空各社の売上や利益を俯瞰します。次に海外の統計を通して、今後の航空需要の見通しを推察します。最後に私自身の海外における会社経営の経験を踏まえながら、物流も含めた航空業界の在り方について考察を述べると同時に、どうすれば航空業界の成長から「個人」として恩恵を受けられるか、提言を述べたいと思います。航空関連・インバウンド関連の株式投資に関心がある方には、特にご覧いただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
 

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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