Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第86話 海外旅行を楽しむロシア人たち
前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/n349ea387d3b5
この話は2022年3月に遡る。マレーシアの港湾でコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、この日、タイのプーケット島にいた。プーケット島はタイ南部のアンダマン海に面するタイ最大の島で、透き通るような白い砂浜の周りを、美しいエメラルドグリーンの海が囲んでいる。正に東南アジアを代表するリゾートだ。
さて氷堂はプーケット島が大好きで、定期的に足を運んでいた。この島はマレーシアからも近く、飛行機で1時間もあれば到着する。日本で言えば、東京~大阪間程度の距離だ。マレーシアはイスラム教の国ということもあり、アルコール類が非常に高い。一方でタイはあらゆる酒が非常に安く手に入り、ビールの値段も日本の半額程度だ。それで氷堂はまとまった休暇が取れる度に、プーケット島を訪れていた。
この日、氷堂はホテルにチェックインを済ませた後、近くのバーに足を運んだ。氷堂が定宿にしているホテルには、洗濯機などの設備も整っており、ゲストには長期滞在の外国人も多かった。氷堂がプーケットで楽しみにしている事の一つは、そういった外国人たちとの交流だ。いつものようにバーは様々な国籍の外国人で溢れていたが、その中でも特に目立つのはロシア人だ。
ただ少し気がかりなことがあった。これより10日ほど前、ロシア軍はウクライナへと軍事侵攻を開始し、国際社会はロシアへの経済制裁を始めていた。恐らくその影響はロシア人観光客にも及んでいるだろう。そんな事を考えながら、ドリンクが来るのを待っていた。その時だった。スマホのニュースサイトに目をやると、次のニュースがトップに書かれていた。
『ロシアへの包囲網が強まる中、ロシアの民間航空会社であるS7航空は、2022年3月4日からタイへの国際線のフライトを停止することに決定しました。同じくアエロフロート航空も、3月8日をもって国際線を停止します。これにより多くのロシア人観光客が帰国できなくなる可能性も指摘されています』。
ニュースによれば、経済制裁の一環として、ロシアとタイを結ぶ国際線は、これから順次停止することに決まったらしい。言うまでもなく、一般のロシア人観光客には非などないが、仮に国際線が止まってしまえば、ここにいるロシア人たちも帰国できなくなるかもしれない。一方で氷堂が目を上げると、ロシア人たちは仲間内で大いに盛り上がっており、その様子からは母国が経済制裁を受け、それに巻き込まれているという悲壮感は感じられなかった。
氷堂は考えた。この戦争の最中にロシアを離れてプーケットに来ているロシア人たちは、一体何を考えているのだろうか?経済制裁の影響はないのだろうか?であればどういった抜け道があるのだろうか?そんなことを考えながら横を見ると、バーカウンターには一人の屈強な男が座っていた。背は高く185cm以上あり、スキンヘッドだった。強面だが目尻には皴があり、気難しさと優しさをその表情からは垣間見る事ができた。その男はバーテンダーと雑談をしていたが、その英語は強いロシア訛りだった。間違いなくロシア人だ。「この男ならば何か分かるかもしれない」。そう考えた氷堂は、思い切って声をかけてみることにした。しかしその後に氷堂が知ることになったのは、ロシア国民が抱える苦悩と、一方で有名無実化されている経済制裁の限界だった。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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