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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第2話 保税区(Bonded zone)での静寂

前回の話はこちらから
https://note.com/malaysiachansan/n/n03a10c155d4c?magazine_key=m0838b2998048

保税区の中に入り車を数キロ走らせた氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、遂にコンテナが保管されているエリアに到着した。そこには山の様なコンテナが積み上げられていた。

高積みコンテナ①

その時、氷堂の携帯電話が鳴った。

「リツ、もう現場には到着しているのか?」

その声は氷堂の会社のCOOであるカイルディンからだった。カイルディンは50代後半で、マレーシアの港湾ビジネスを知り尽くしたマレー系の大物だ。マレーシアにはマレー系が69%、中華系が23%、7%のインド系、そして1%その他の民族がいると言われている。それに加えて数百万人の外国人が生活しており、世界でも稀にみる多民族国家が形成されている。そしてマレーシアの特徴的な政策としては、プミプトラ政策(マレー語で「土地の子」を意味する)を挙げる事ができる。これは端的に言えばマレー系を優遇する政策である。この政策が取られている結果、マレーシアでは行政関連の業務は基本的にマレー系の者が行う事になっている。この点でカイルディンはマレー系であり、港湾関連の行政業務に深く精通している。また20代の頃から今に至るまでポートクラン一筋で働いてきたため、彼は多くの者に知られている。そんな彼に対して、氷堂は絶大な信頼を置いていた。そしてカイルディンは話を続けた。

「昨日寄港した船から降ろしたコンテナだが、やはり幾つかロストがあった様だ。リツの方からこの点を香港の青衣(チンイ)の港に確認してもらえるか?」

日本の港湾では考えられないかもしれないが、海外の港湾ではコンテナのロストは日常茶飯事だ。船社ごとにコンテナを追跡できるシステムが構築されてはいるものの、実際にはそれを通り抜け、どこかの港で置き去りにされてしまうケースは頻繁に起きる。最終的には見つかる事が殆どなのだが、この場合は追跡調査をしないと発見できなくなってしまう。そうなると、それは氷堂の様なコンテナリース会社にとっては非常に重大な問題となる。なぜならコンテナの中身はともかく、コンテナそのものがリース会社にとっては大切な金融商品だからだ。

なぜコンテナが金融商品になるのか、恐らく殆どの人は理解できないに違いない。ここでコンテナリースの基本的な仕組みについて説明したいと思う。

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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