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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第68回 中東の鍵を握る国、カタールの実態

 2023年12月8日、米国のブリンケン米国務長官はカタールのムハンマド首相と会談し、パレスチナ情勢について話し合いました。この中でブリンケン氏は、ハマスが人質を解放する上でカタールが重要な役割を担っていることを認め、感謝の意を表明しています。またカタールの政治力は中東以外でも発揮されています。例えば2023年10月には、カタールの仲介でウクライナからロシアに連れ去られた4人の子どもの帰還が実現していますし、同12月にもさらに6人の子どもが帰還しています。これに対しては、ウクライナのゼレンスキー大統領も謝意を表しており、国際社会からも評価を受けています。
 
 その反面、現在もハマスの政治局長のハニーヤ氏はカタールを拠点に活動をしており、このようなカタール政府の姿勢を「二枚舌」として非難する声も少なからずあります。また2022年にはFIFAワールドカップが開催され、商業的には大成功を収めましたが、その裏側で外国人労働者への過酷な扱いも顕在化しており、死亡事故も無数に起きています。このようにカタールという国は、濃い光と影を持ち合わせています。そしてそのカタールから、日本は石油や天然ガスを輸入しています。言い換えるなら、日本はカタールに「生命線」を握られている状況なのです。それで一度立ち止まって、私たち国民一人一人がカタールについて正しい理解を得ることは大切なことと言えます。
 
 ではどうすればそれを理解できますか?この点で統計は有用です。統計を調べれば、両国の貿易がどのように進展して来たのか、それにより両国の関係がどのように深まってきたのかを知ることができます。それは両国の過去の歩みを教えてくれると同時に、現在抱える問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。それ故に統計を調べる事は重要です。
 
 ただ日本の統計だけでは不十分です。海外の統計も調べる必要があります。カタールはサウジアラビアなどが敵対視するイランやトルコといった国々とも太いパイプを持っており、その軋轢が積み重なった結果、2017年にはアラブ諸国と断交に至っています。一方でカタールは西側諸国とも良好な関係を築いており、どこかの国に依存しない、バランス外交に徹しています。それで海外の統計を調べるならば、カタールという国が持つ多面性をより深く知ることができます。ですから日本の統計に加えて、海外の統計も必要と言えます。
 
 しかし統計からは見えて来ないものもあります。それはカタールで暮らす人々の実際の「生の声」です。カタールの労働力は極端に外国人に依存しており、ローカルの人口は1割程度しかいないと言われています。そして外国人の多くは低賃金の出稼ぎ労働者ですが、一方でローカルの平均収入は日本のそれを大きく超えます。こういったローカルの声、または外国人労働者の声というものは、統計からは見えて来ず、彼らの話に耳を傾けて初めて理解できるものです。ですから「生の声」は大切なのです。
 
 この点で私は海外のマレーシアのポートクランで会社を経営していますが、カタールのハマド港にも取引先がいます。ハマド港はドーハの南に位置するカタール最大の港で、同国の貿易の大部分がこの港を通して行われています。そして港湾の就業者の大多数は低賃金の外国人労働者であり、40度を超える極暑の中、命の危険と向き合いながら彼らは仕事に励んでいます。私はこういった実情を目の当たりにしているため、「生の声」を聞くという点で、確かに有利な立場にいます。
 
 それで今日は「中東の鍵を握る国、カタールの実態」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、日本とカタールがこれまでどのように関係を深めてきたのかを振り返ります。次に海外の統計を通して、カタールと諸外国との関係を俯瞰します。最後に私自身の海外での会社経営の経験も踏まえながら、カタールの抱える構造的な問題点を考察すると共に、今後日本が彼らとどう対峙していくべきかについて、提言を述べたいと思います。イスラエルとパレスチナの問題に関心をお持ちの方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
  

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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