「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第24回 日本は何故新卒一括採用を止められないのか?
2021年12月、経団連はメディアの取材に対し、今後の全体的な方針として、「4月入社の新卒一括採用の割合を徐々に減らし、中途採用や通年採用の拡大を進めていく」と述べました。言うまでもなく経団連は日本を代表する大企業の集合体ですが、その経団連がこのような指針を示した事で、日本の採用の慣習が大きく変わる可能性に期待が寄せられています。
実際この新卒一括採用は、種々の功罪があるものと考えられてきました。例えばこの制度によって、日本の若年失業率は低く抑えられてきましたし、一方で専門性高い経験者の中途採用が阻害されてきたとも考えられています。併せて大企業が大量の新卒一括採用を行うために、中小企業にはそれから漏れた人材しか集まらず、それが日本のベンチャー育成を阻害している、と考える識者も少なからずいます。
しかし確かに一つ言える事として、この新卒一括採用の制度は、その就職希望者が卒業した年によって大きな当たりはずれを生んできました。例えば就職氷河期には、有名大学を卒業しても就職先が全く見つからなかった人たちが大勢いますし、最近ではリーマンショック時やコロナ禍でも同様の事象が起きています。
それである人は考えるかもしれません。「どうして日本は新卒一括採用という慣習を止められないのだろう」と。それを知る手掛かりは統計にあります。統計は雄弁で嘘をつきません。統計を調べれば、日本の新卒一括採用がどのように推移してきたのか、そしてそれが経済にどのような影響を与えてきたのかを知る事ができます。確かに統計を調べる事によって、新卒一括採用に関するこれまでの流れを知る事ができるでしょう。
一方で日本の統計だけを見ても意味がありません。世界の統計を調べる必要があります。特に2000年代以降、国際社会のグローバル化は急速に進みましたが、それは雇用政策においても同様です。生産拠点の海外移転などにより、一つの国の雇用政策の転換が、他の国の雇用政策にも影響を及ぼす様になりました。ですから世界の統計を調べる事で、日本の本当の立ち位置を知る事ができます。
ただし統計だけでは見えて来ない分野もあります。それは実際に就職活動を行った学生や、採用を行った企業の体験です。こういった体験というものは、統計を裏打ちしてくれる事もありますが、一方で統計からは見えて来ない本当の姿を浮き彫りにしてくれる事もあります。ですから統計に加えて、実際の体験談に耳を傾ける事は重要なのです。
この点で私自身は超就職氷河期世代です。言い換えるなら、この新卒一括採用制度の最も深刻な被害を受けた世代です。私と同学年の女子では、国立大学を卒業したにもかかわらず、就職先が全く見つからなかった人が何人もいました。一方で私は30代になり海外で就職をしましたが、海外で就職をした際には、当然の事ながら新卒一括採用ではなく中途採用でした。その後は海外で会社を興し、今度は人を雇う立場になりました。現在の従業員は全員、新卒一括採用ではなく中途採用で雇った人達です。この様に私自身も新卒一括採用の矛盾を体験したり、海外においては中途採用を体験したり、今では経営者として人を雇用する立場も経験をしています。ですから私はこの新卒一括採用という問題について俯瞰する上で、確かに有利な立場にいます。
それで今日は「日本は何故新卒一括採用を止められないのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、この新卒一括採用の歴史や推移を調べます。次に世界の統計を通して、この制度が他国のそれと比較していかに異質なものなのかを例証します。加えて私自身の経験を含めながら、海外と日本の類似点・相違点を考え、今後の日本が向かうべき方向性についても検討していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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