「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第13回 日本の自動車産業は将来勝ち残れるのか?
「車が売れない」。この様なニュースを日本では良く耳にします。実際、日本における新車の販売台数は年々右肩下がりになっています。これには色々な理由があると推察されますが、例えばその一つには「車の値段が上がった」という点を挙げられるかもしれません。確かに新車価格は年を追うごとに上がっていますが、その一方で日本人の平均年収は上がっていません。「車を買うほど余裕がない」と感じている若者も少なくないでしょう。また別の理由としては、「公共交通機関が発達した」という点も挙げる事が出来ます。確かに都市部を中心に、この30年間でバスや地下鉄などの公共交通機関が拡充しました。以前の様に自動車を購入しなくても、都市部の多くの地域では快適に移動ができます。加えてカーリースなど、車の購入に代わる代替手段が増えてきた事も、車の販売台数が伸びていない事の要因となっているでしょう。
しかし一方で世界に目を向けてみると、状況は大きく異なります。世界全体を見るならば、新車の販売台数はずっと右肩上がりになっており、今後も更に伸びていくものと予測されています。特に新興国市場においては伸長率が大きくなっており、これらの地域の人口の増加に合わせて、車の販売台数も更に伸びていくものと考えられています。つまり日本の国内市場とは対照的に、世界の自動車市場全体は伸長を続けているのです。
この点で日本は世界屈指の自動車大国の地位を長年守ってきました。しかし次の様な疑問が生じるかもしれません。「これから先も、日本の自動車産業は伸長を続ける事が出来るのだろうか?それとも衰退の一途を辿るのだろうか?」。特に近年は脱炭素が世界的なトレンドとなっており、欧州に比べてEV化が遅れている日本の自動車メーカーの将来は厳しいと考えている識者も少なくありません。自動車産業は間違いなく日本の基幹産業ですから、この点は自動車産業に携わる人のみならず、日本国民全員が関心のある分野だと思われます。
ではどうすれば未来を予測できるのでしょうか?この点で統計は雄弁です。統計を調べるならば、自動車産業の傾向について正しい理解を得る事ができます。例えばいつから日本国内の自動車の販売台数は落ち目になってきたのでしょうか?それを知れば、落ち目になった契機となる出来事も併せて知る事が出来るかもしれません。
一方で日本国内だけの統計を見ても余り意味がありません。なぜなら前述したように、日本の自動車販売台数は減少の一途を辿っていますが、逆に世界の販売台数は増加しています。世界の統計を調べるならば、日本の自動車産業の現在の立ち位置について、より正確な理解を得る事ができるに違いありません。
ただし別の重要な面として、統計だけでは見えて来ない分野もあります。例えば各国の「自動車の果たす役割」というものは、国ごとに異なるものです。一例として、私は以前香港に滞在していた時期がありますが、香港では輸入関税が高いために、車が非常に高価です。また公共交通機関が発達している事もあり、殆どの人は自家用車を所有していません。しかし実際に走っている車を見ると、いわゆる高級車の占める割合が非常に多い事に気付きます。関税率が高いために、日本で購入するよりも車の価格が遥かに高いにもかかわらず、高級車が多いのです。なぜでしょうか?それは香港では自動車というものが、一つのステータスシンボルになっているからに他なりません。
一方で新興国に目を向けてみると様子が異なります。例えば私は現在マレーシアで生活していますが、マレーシアは超車社会で、車の保有率は1世帯あたり1台近くに及びます。ここでは公共交通機関が余り発達していない為、車無しでの生活は一部の都市部を除いてかなり不便です。ですから車に最も求められるのは「日常の足」としての機能と言えます。更にアフリカなどに目を留めるならば、公共交通機関が発達していないのと同時に、所得レベルも非常に低いため、一般家庭が自家用車を持つ事は非常に困難です。そして舗装されていない道も多いため、車に求められるものは、ステータスやデザインよりも耐久性になります。
こういった世界各国における車の役割というものは、残念ながら統計からはなかなか見えてこないものです。これはその土地を訪れ、その土地に住む事によって初めて見えてきます。この点で私は複数の国に跨る会社を経営しており、これまで数えきれないほどの国、特に新興国や発展途上国も出張で訪れてきました。その中で各国における自動車の役割についても、これまでに様々な面を観察する事ができました。特に弊社は港湾の会社であり、港湾というものは輸出入の窓口であるため、世界各国における自動車の輸出入のトレンドをリアルタイムで見る事ができます。そして実は私自身も大の車好きで、社用車としてトヨタのハイラックスを40万キロも乗る車マニアでもあります。
それで今日は「日本の自動車産業は将来勝ち残れるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本国内の統計を通して、日本の自動車販売台数がこれまでどのように推移してきたのかを振り返ります。次に世界の統計を通して、世界の自動車産業の大きな潮流を俯瞰すると共に、今後の見通しについても考察していきます。更に私自身が世界の港湾で目にしてきた実体験を通して、今後の自動車産業の未来予測を書いていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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