「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第27回 日本はシンガポールから何を学べるのか?
2022年4月、シンガポール金融管理庁は、金融の引き締め政策を発表しました。これでシンガポールは、過去6か月間で実に3回目の金融引き締めを行った事になります。確かに近年シンガポール経済は力強く伸長してきました。2020年こそコロナの影響で足踏みが見られましたが、2021年には反転し、2022年の経済成長は2021年を上回る水準で推移すると考えられています。そして現在シンガポール国内では人手不足によって労働需給のひっ迫が起きており、賃金が上昇し、それと同時に物価も上昇するという、インフレのトレンドが強く見られるようになっています。
このようにシンガポールの経済は、日本とは対照的な状況にあります。日本が長年の不況に苦しむ間に、シンガポールは驚異的な経済成長を遂げ、今もなおそれを続けています。1960年代以降、日本はアジアのトップランナーとしての地位を確固たるものとしてきました。しかしこの20年はシンガポールの台頭により、少なくとも賃金などの面では、日本はシンガポールの後塵を拝するようになっています。そしてその差は縮まるどころか、開く一方です。
なぜこうなってしまったのでしょうか?確かに日本とシンガポールでは人口も面積も全く異なるため、単純に両国を比較する事はできません。とはいえ、どうしてこのような逆転が生じてしまったのかを考察する事は有益です。それを知れば、日本の経済停滞の要因や、今後日本経済が浮上するためのヒントを得る事も出来るかもしれないからです。
ではどうすればその実態を掴む事ができますか?この点で統計は雄弁です。統計を調べれば、これまでのシンガポールの歩みについて正確な理解を得る事ができます。日本がどれだけ経済停滞を続けているか、更にシンガポールがどれだけ経済成長を続けているか、統計はその事実を明らかにしてくれます。これにより、日本が抱えている構造的問題も浮き彫りになるかもしれません。
一方で日本との比較をするだけでは不十分です。世界の統計を調べる必要があります。既にシンガポールは世界屈指の国際都市に成長しています。この点でシンガポールは他国と比較して、どのような点がアドバンテージになっていて、どの様な点がディスアドバンテージになっているのでしょうか?こういった比較を行う事で、今のシンガポールの世界における正確な立ち位置を理解する事ができます。
そしてシンガポールは金融都市として知られていますが、それ以外でも世界を牽引している分野があります。それは港湾です。シンガポールはマラッカ海峡という世界屈指の海運の要衝に位置しているため、古来より交易都市として栄えてきました。現在のシンガポールもこの立地的優位性を最大限に活かし、そのコンテナ取扱数は世界2位となっています。
この点で私自身も隣国マレーシアの港湾で会社を経営しており、マレーシアとシンガポールの港湾を比較する機会に恵まれています。特に弊社はシンガポールに取引先が非常に多くいるため、1か月に1度程度の頻度でシンガポールの港湾には行くのですが、その規模とオペレーションに関しては、残念ながら私達マレーシアの港湾はシンガポールの港湾の足元にも及びません。特に近年シンガポールの港湾では、世界に先駆けて港湾の機械化を進めており、AIと荷役が融合された世界最先端のテクノロジーを見る事ができます。私はこういった点をこの目で見る事ができているので、シンガポール経済を語る上でも有利な立場にいます。
それで今日は「日本はシンガポールから何を学べるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本とシンガポールの統計を比較する事で、両国の経済がどのように推移してきたのかを振り返ります。次に世界の統計を調べる事で、現在のシンガポールの世界における正確な立ち位置を確認します。最後に私自身が港湾で会社を経営する中での経験を踏まえながら、シンガポール経済の強さを分析すると同時に、日本がどのような点でシンガポールからも学べるかも考察していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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