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「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第57回 日本でリスキリングは成功するのか?

 2023年5月16日、日本政府は労働市場改革に関する基本指針を発表しました。その一つの目玉が、リスキリング=学び直し支援の強化です。一例を挙げれば、自己都合退職者を会社都合退職者と同様の失業給付要件にしたり、退職金にかかる所得税の軽減措置を見直したりすることで、政府はリスキリングを推進したいと考えているようです。

 確かに新卒一括採用や年功序列、さらには終身雇用といった日本に昔から存在する雇用習慣は、近年は時代にそぐわないものとなってきました。その結果、もし新卒時に年収の低い業界に就職してしまうと、どんなに経験を積んでも一定レベル以上には年収が上がらない、という弊害も生まれています。このような状況が実際に見られる訳ですから、政府がリスキリングを推進したいのも頷けます。
 
 一方でバランスの取れた見方も大切です。ご承知の通り、職業訓練というものは一定の時間を要します。また日本の場合は転職で賃金が上がる事よりも、下がる事の方が多いと言われています。その傾向は年齢を重ねるに連れて高くなるため、安易なリスキリングは逆に自分の首を絞める可能性すらある訳です。
 
 ではどうすればリスキリングに関して、その現実を見定めることができますか?この点で統計は有用です。例えば日本の統計を調べれば、業界ごとの賃金構造や転職率を知ることができます。それはこれまでの日本の雇用習慣の実態を明らかにすると共に、現在の日本が抱える構造的な問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
 
 一方で日本の統計だけを見ても、余り意味がありません。海外の統計にも注目する必要があります。例えばドイツはリスキリングの成功事例として挙げられることが多く、日本政府もモデルケースとして扱っています。しかし言うまでもなく、全ての国でリスキリングが上手く機能している訳ではありません。それぞれの国には固有の事情があるものです。それで世界各国のリスキリングの状況を精査するならば、逆に日本の市場の特異性も改めて理解できるでしょう。ゆえに海外の統計も重要なのです。
 
 ただ統計からは見えて来ないものもあります。それはリスキリングに挑戦した人たちの「生の声」です。新たな仕事を得るために勉強する事には、それなりの時間と努力を要します。また新しい業界で働き始めてからも、慣れない仕事を覚えなければなりません。こういった個々の人の苦労や喜びというものは、当然ながら統計からは見えてきません。ですから「生の声」に耳を傾けることも大切と言えます。
 
 この点で私自身もリスキリングの経験者です。20代は横浜で港湾荷役労働者として、非常に過酷な現場労働を経験しました。その後は縁あって香港のコンテナリース会社で働くことになりましたが、コンテナリースは金融商品という性格も持ち合わせているため、一から国際会計基準(IFRS)などを学び直さなければなりませんでした。さらに現在ではマレーシアで会社を経営しています。ここで私はリスキリングした社員を受け入れていますし、逆にリスキリングで会社を去る社員もいます。実際にこういった経験をしてきたという点で、私はリスキリングについて語る上で有利な立場にいます。
 
 それで今日は「日本でリスキリングは成功するのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に日本の統計を通して、産業ごとの賃金体系や転職率の推移などを俯瞰します。次に海外の統計を通して、世界の転職市場と日本の転職市場を比較します。最後に私自身の海外における会社経営の経験も踏まえながら、今後の日本におけるリスキリングの課題と方向性について、考察と提言を述べたいと思います。将来的に転職を考えている方には、特にお読みいただきたい内容です。長文になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
  

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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