「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第15回 日本は東南アジアに抜かれるのか?
日本経済の低迷が続いています。実際、1990年代からは物価も給与も殆ど上がらないデフレの状態が続いてきました。そして最近は、物価の上昇に気賃金の上昇が追い付かない、いわゆる「スタグフレーション」と呼ばれる状態に近いと言われています。もしこの状況が続けば、日本人の生活が更に苦しくなる可能性もあります。
実際日本のGDPは2010年に中国に抜かれ、世界3位となりました。それ以降中国経済は力を付け続け、現在では日本の数倍のGDPを持つまでに成長した事はご承知の通りです。しかし近年、日本経済と中国経済の力関係に割って入ってきているのが、東南アジア諸国連合、通称ASEANです。実際ASEANの経済伸長率は凄まじく、またこの地域は膨大な人口を抱えている事から、この地域の経済がアジアは勿論の事、世界経済全体の鍵を握っていると考える識者も少なくありません。
一方で日本人の中には次の様に言う人もいるかもしれません。「日本にとってASEANなんて眼中にないよ。実際、所得レベルはまだまだ下ではないか。それに日本の工場が沢山ASEANにはあるではないか。日本の底力を舐めるな」。確かにASEANは経済的に伸びてきているとはいえ、全体の所得レベルを比べるなら、日本よりも遥か下にいます。また日系の製造業の工場が東南アジアに沢山あるのも事実です。ですからこの指摘は一見正しいようにも思えます。
ただ日本の観光地の様子を思い出してください。そこには中国や韓国からの観光客に加え、東南アジアからの旅行者も大勢います。特に一部の東南アジアの富裕層は日本を定期的に訪れて豪遊しており、5つ星ホテルなどではそういった方々を頻繁に目にされた事でしょう。この様な様子を目にすると、「東南アジアの所得は低い」という常識を疑いたくなります。
では一体何が正しいのでしょうか?この点で統計は雄弁です。統計を調べるなら、ASEANの経済がこれまでどのように伸長してきたかを知る事ができます。また各国の全体のGDPの推移に加えて、国民の所得がどのように推移してきたかも知る事ができます。こういった過去の統計を調べる事によって、私たちはASEANの実態に関して正しい理解を得る事ができます。
一方で統計だけでは見えて来ない分野があります。それはローカルの人々の暮らしぶりです。統計では所得の推移までは見る事ができますが、その所得の上昇がどのように人々の暮らしを豊かにしてきたかまでは、なかなか見えてきません。例えば東南アジア全般に言える事として、所得と同時に物価も急激に上昇しています。仮に所得が上がったとしても、それを上回るペースで物価が上昇するなら、生活の質そのものは逆に苦しくなるかもしれません。こういった人々の暮らしぶりに関しては、なかなか統計だけでは見えて来ないもので、人々の「生の声」を聞く事によって初めて理解できます。
この点で私はASEANの地理的な中心地であるマレーシアに住んでおり、事業を営んでいます。多くのローカルと仕事上もプライベート上も接点があり、彼らから「生の声」を毎日聞く事ができています。加えて弊社は港湾の会社であり、世界中の港湾と取引があります。とりわけASEAN内の主要港に関しては、ほぼ全て足を運びました。また私はASEANを含むAPEC(アジア太平洋経済協力)の19か国であれば、ビザなしで商用訪問ができるAPECカードという特別な査証も有しています。このカードを用いて、数えきれないほどASEAN内には出張で出かけており、取引先を通して、現地の生の声を聞く事ができています。特に港湾=貿易の最前線ですから、最新のデータに触れる機会も得ています。ですから私はASEANの経済を俯瞰する上で有利な立場にいます。
それで今日は「日本は東南アジアに抜かれるのか?」というテーマでコラムを書きます。最初に最新の統計を通して、近年ASEANがどのように経済面で伸長してきたかを振り返ります。次に日本のプレゼンスがASEANの経済圏の中でどのように推移してきたのかも考えます。更にインバウンドの分野で、今後どのように日本とASEANがかかわっていくべきなのかも考察します。加えて、私が港湾の現場で耳にしている生の声を紹介する事によって、こういった統計を例証すると共に、今後の日本の進むべき方向についても検討していきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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