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Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア) 第58話 嫌悪されるイスラエルとパレスチナ問題の根深さ

前回の話はこちらから
 
https://note.com/malaysiachansan/n/nc2b18a6748f6
 
 この話は2018年まで遡る。マレーシアのポートクランでコンテナリース会社を経営する氷堂律(ひょうどうりつ、通称ちゃん社長)は、ある日曜日の午後、プトラジャヤという都市にいた。ご存知の通り、マレーシアの首都はクアラルンプールなのだが、実は行政上は首都はこのプトラジャヤに置かれている。プトラジャヤはクアラルンプールの南方25kmに位置しており、人口は約12万人しかおらず、そのほとんどが政府機関で働く職員とその家族であると言われている。
 

 
 さて氷堂の会社はバングラデシュやパキスタンからの外国人労働者を10数名雇用している。氷堂がプトラジャヤを訪れたのは、彼らのビザの申請手続きを行うためで、そのアポイントメントは月曜日の朝9時から入っていた。ただこの辺りは朝の時間の交通渋滞が酷く、それを避ける目的でプトラジャヤのホテルに日曜日の夜から前泊していた。
 
 午後7時、チェックインを済ませた氷堂は、近くに夕食を食べに出かけようと考えた。しかし氷堂がホテルから出ようとすると、後ろから呼び止める声がした。「誰だろう?」と思い振り返ると、そこにはコンシェルジュの女性が立っていた。そして彼女は言った。
 
「お客様、これからお出かけでしょうか。実はこの近くで大きなデモが計画されています。今は安全のために、余り出歩かない方が良いかもしれません」。
 
 急なコンシェルジュの言葉に氷堂は少し驚いた。それで氷堂も尋ねてみた。
 
「わざわざご親切にありがとうございます。ところでどういった類のデモが計画されているのでしょうか?」
 
 するとコンシェルジュは答えた。
 
「実は金曜日から、プトラジャヤではMyAQSA Festivalというイベントが行われています。このイベントは、『イスラム教徒が集まって団結を強めよう』という趣旨なんですが、そのクライマックスとなるのが、今行われているパレスチナを応援するデモなんです。言い換えれば、反イスラエルのデモですね」。
 
 氷堂はコンシェルジュの言葉を聞いて、逆に興味が湧いてきた。マレーシアはイスラム教が主たる宗教の国家で、ムスリムの割合は6割強だと言われている。しかし残りの人達は仏教やヒンドゥー教、またはキリスト教などを信奉している。これは氷堂の会社も同様で、イスラム教徒の社員が最も多いのだが、それ以外の宗教の信者もいくらかはおり、同じ軒の下で仕事をしている。このようにマレーシアという国は、多宗教の融和を訴えている。ただ裏側では軋轢やいさかいを抱えているのも現実だ。
 
 それで氷堂は答えた。
 
「ありがとうございます。安全には十分注意します」。
 
 そう言うと氷堂はホテルを後にし、デモが行われている連邦裁判所広場へと向かった。マレーシアが抱える宗教問題の現実をこの目で見るために。しかしその後に氷堂が目撃したものは、予想をはるかに超えたものだった。そこには5万人を超えるデモ参加者と、イスラエルに対する強烈な嫌悪および忌避感情が満ち溢れていた。
  

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マガジンは毎週1回、月4回更新します。コンテナ業界の裏話を含んだ自伝的小説「Container from Malaysia(コンテナ フロム マレーシア)」と、日本の構造的問題を海外の経営者の視点で統計と共に読み解くコラム「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」を隔週で更新。貿易に関心がある方、海運やコンテナ関連の株をお持ちの方、またマレーシア在住者を含む海外移住者やそれを目標にしている方、更には日本の行政や教育システムに疑問をお持ちの方に有用な情報をお届けします。

香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…

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