「海外から見た、日本の良い点・おかしな点」 第54回 コロナ禍が明けた今、日本のインバウンドはどこを目指すべきなのか?
2023年5月30日、岸田首相は観光立国推進閣僚会議を開催し、日本のインバウンドの中長期計画を決定しました。それは「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」と名付けられており、鍵となるのは観光以外の分野の拡充です。政府は今後、「ビジネス」「教育・研究」「文化芸術・スポーツ・自然」の3分野においてインバウンドの強化を進める方針です。
例えばビジネス分野においては、2025年のビジネス目的の訪日外国人消費額を8600億円まで引き上げ、2030年には国際会議開催数で世界TOP5を目指すとしています。このように政府は観光需要だけでなく、ビジネスなどの分野においてもインバウンドの裾野を広げようと試みています。これはコロナ禍が明けた今、日本のインバウンドが第2ステージに突入したことの証左とも言えます。
しかし課題もあります。例えば今年に入ってから、多くのホテルが人手不足に陥っています。急激な需要の回復に人材の供給が追い付いておらず、空室はあるにもかかわらず全室を稼働させられないホテルが続出しており、様々なところで機会損失が生じています。ですからインバウンドに関しては、希望的観測だけでなく、正しい実態を理解することが大切と言えます。
ではどうすればそれを理解することができますか?この点で統計は重要です。統計を調べれば、日本のインバウンドの歩みについて、正確な理解を得ることができます。コロナ前に訪日外国人はどれだけ増えてきたでしょうか?そして新型コロナウイルスの感染拡大により、それはどれほどの影響を被ったのでしょうか?さらにコロナ禍が明けた今、その数値はどれほど回復しているでしょうか?統計を調べれば、こういった疑問に対する答えを得ることができます。それはこれまでのインバウンドの歩みを振り返るとともに、現在の日本が抱える問題も浮き彫りにしてくれるかもしれません。
一方で日本の統計だけに注目しても余り意味がありません。海外の統計にも注目する必要があります。日本はインバウンドの解禁が欧州や東南アジアと比較して、1年もしくはそれ以上遅れました。その間にも世界を見回せば外国人観光客の数は着実に戻っており、世界中で観光客の取り合い合戦が起こっています。そして今、日本もこの集客競争のただ中にある訳ですから、こういった実態を知るためにも海外の統計を調べることは大切です。
ただ統計からだけでは見えてこない分野もあります。それは人々の「生の声」です。例えばコロナ前にも外国人観光客による「観光公害」が問題になりました。これは地域のキャパシティを大きく超える外国人観光客が殺到することによって、その地域の住民の生活に支障が生じることを意味しますが、インバウンドが急回復した今、同じ問題が再び各地で生じるようになっています。ちなみに私の実家もインバウンドの恩恵を大きく受けている観光地にあるため、こういったインバウンドの功罪両面を見ています。このような現場の声というものは、統計からはなかなか見えて来ないものです。ですから「生の声」に耳を傾けることは重要と言えます。
この点で私自身も既に昨年からは、毎月のように海外出張を繰り返しています。私の出張先はクライアントの関係で東南アジアや中東が多いのですが、それらの国々のほとんどはコロナ前の活気を取り戻しており、外国人観光客も多くみられます。一方で誘致に苦戦している国々も少なからずあり、明暗が分かれている状況です。私はこういった海外の最前線の状況を実際に目の当たりにしているという点で、インバウンドについて語る上で有利な立場にいます。
それで今日は「コロナ禍が明けた今、日本のインバウンドはどこを目指すべきなのか?」というテーマでコラムを書きます。コロナ禍の間にもインバウンドについてのコラムは書いているのですが、今回は最新の統計を通して内容をブラッシュアップし、訪日外国人数の推移について振り返ります。また海外の統計を通して、世界でどれだけ観光需要が戻ってきているのかを考えます。最後に私自身の海外での会社経営の経験も踏まえながら、コロナ後の日本のインバウンドの目指すべき方向性について、考察と提言を述べていきたいと思います。長文になりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
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ちゃん社長のコンテナ・海運業界・マレーシアの裏話。
香港・マレーシアでコンテナリース会社を経営中。マレーシア在住。コンテナや海運業界の裏話や、海外から見た日本の素晴らしい点やおかしな点を統計…
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